北海道の港町・函館で育まれた「函館ラーメン」は、透き通った塩スープと細麺の絶妙なハーモニーが特徴の一杯です。他の北海道ラーメンとは一線を画す洗練された味わいは、函館の海と歴史が生んだ珠玉の逸品。今回は、あまり知られていない函館ラーメンの魅力を徹底解説します。函館ラーメンの奥深さを知れば、ラーメン通としての視野が広がることでしょう。
この記事のもくじ
函館ラーメンの歴史と起源
海と共に発展した港町のラーメン文化

1854年(安政6年):函館港が開港し、国際貿易港として発展しました。この時期、多くの華僑(中国人)が昆布などの海産物を買い付けるために訪れ、函館市民との交流が始まりました。
華僑は広東料理の「清湯(ちんたん)スープ」や「湯麺(タンメン)」を持ち込みました。これが現在の函館ラーメンのルーツとされています。特に、鶏ガラや豚骨をベースにした透明なスープは、広東系塩味ラーメンの特徴を受け継いでいます。
養和軒と「南京そば」
1884年(明治17年):函館新聞に「南京そば」の広告が掲載されました。これは華僑経営の洋食店「養和軒」が提供したもので、一杯15銭(現在の約2000円)という高級品でした。ただし、この南京そばが現在のラーメンと直接つながる証拠は見つかっていません。
昭和初期の普及
昭和初期には、「支那そば」という名称でラーメンが市民権を得ていました。1932年(昭和7年)の純喫茶「ミス潤」のメニューには「支那そば」が記載されており、隣接する専門店「笑福」から提供されていたことが確認されています。
この頃、まっすぐな細麺と澄んだスープという現在の函館ラーメンの基本スタイルが確立されていました。
戦後から現代まで
昭和20年代~30年代:函館駅前の繁華街「大門地区」に屋台が並び、多くの人々に親しまれるようになりました。
1971年(昭和46年):「おんじき庭本」が観光客向けに「函館ラーメン」という名称を使用し始めました。この名称が定着したのは2000年頃とされています。
2002年(平成14年):第1回函館塩ラーメンサミットが開催され、観光資源としても注目されるようになりました。
このラーメンは、寒冷な気候に合った温かい料理として市民に愛され続けています。また、その歴史は函館市民にとって地域文化やアイデンティティを象徴する存在でもあります。
函館ラーメンは、中国南部から伝わった塩味湯麺を起源とし、開港地として多文化交流が盛んな函館で独自に発展しました。その透明感あるスープや歴史的背景は、日本全国でも特異な存在であり、現在も地域住民や観光客に親しまれています。
基本的な特徴の詳細解説
透明感のある塩スープの秘密

函館ラーメンの最大の特徴は、透き通った塩味のスープです。鶏ガラと豚骨をベースに、昆布や煮干しなどの海の幸をふんだんに使った出汁が特徴的。8〜10時間かけて丁寧に抽出される旨味は、雑味がなく上品な味わいを生み出します。
スープの透明度にこだわりを持ち、脂分を極力抑えるのも函館ラーメンならでは。これは函館の寒冷な気候と関係しており、体を温めつつも胃に優しい設計になっています。
細麺にこだわる理由
函館ラーメンには主に細麺が使われます。これはスープの味わいを邪魔せず、サラッとした飲み口を実現するため。かん水の配合を調整した中加水の麺は、適度な弾力と喉越しの良さを兼ね備えています。
麺の多くは地元製麺所で作られ、函館の軟水に合わせた配合で仕上げられます。この地域特有の水質が、函館ラーメンの麺の食感を決定づける重要な要素なのです。
函館ならではのトッピング
函館ラーメンの定番トッピングは、チャーシュー、メンマ、ネギ、ナルトとシンプル。しかし特徴的なのは「蒸し鶏」や地元で水揚げされる海産物を使ったトッピングが多いこと。エビやホタテなどの海の幸を活かした店舗も少なくありません。
また、バターを浮かべる店も一部あり、これは北海道ならではの乳製品文化と塩スープの相性の良さから生まれた組み合わせです。
器と提供方法
函館ラーメンは、白い丼や青系の模様が特徴的な丼で提供されることが多く、これは透明なスープの美しさを引き立てるため。また、スープの温度は熱すぎず、麺とスープの味を最大限に引き出す絶妙な温度設定がされています。
地元での食べ方

函館人に愛される本場の味わい方
地元の函館っ子は、まずはスープから一口飲むのが定番。透き通ったスープの旨味を確かめてから麺を楽しみます。また、麺の硬さは「普通」が基本ですが、「やや柔らかめ」を好む年配の方も多いです。
隠れた楽しみ方
函館ラーメンの隠れた楽しみ方に「替え玉なしのスープ割り」があります。麺を食べ終わった後のスープに、一部の店では無料でご飯を入れて「雑炊風」に楽しむ文化も。塩スープの旨味と少し残ったトッピングが絶妙に絡みます。
朝ラーメンも函館の特徴で、朝5時から営業する老舗店もあります。漁師や市場関係者に愛される朝の一杯は、よりシンプルで澄んだ味わいになっていることが多いです。
函館の名店紹介
「一文字」:函館ラーメンの代名詞

創業50年以上の老舗「一文字」は、函館ラーメンの原点とも言える名店。透き通った黄金色のスープに細麺、シンプルなトッピングが特徴です。
特に、鶏ガラと豚骨をベースに魚介の旨味を加えたスープは、どこか懐かしさを感じさせる深い味わい。朝早くから営業しており、地元の常連客で連日賑わいます。
店舗情報
- 住所:北海道函館市湯川町2丁目1番3号
- 電話番号:0138-57-8934
- 営業時間:11:00〜23:00
- 定休日:水曜日
- URL:https://www.ichi-monji.com/2018/
「滋養軒」:数少ない自家製麺

「滋養軒」は、1947年創業の函館を代表する老舗ラーメン店です。JR函館駅から徒歩圏内の便利な立地にあり、地元民や観光客に親しまれています。
最大の魅力は、鶏ガラや豚骨、昆布などをじっくり煮込んだ透明なスープと、自家製の中細ストレート麺の組み合わせ。
具材はシンプルながらもスープや麺の美味しさを引き立てる長ネギ、メンマ、チャーシューが特徴です。塩ラーメンがワンコイン(500円)で楽しめるリーズナブルさも人気の理由です。
店舗情報
- 住所: 北海道函館市松風町7−12
- 電話番号: 0138-22-2433
- 営業時間: 11:15〜13:30
- 定休日: 火・水・木曜日
函館麺厨房あじさい 本店

函館麺厨房あじさい本店は、1930年創業の老舗で、函館塩ラーメンを代表する名店です。五稜郭に位置し、昆布を中心に豚骨や鶏ガラ、煮干しで取ったスープが特徴で、まろやかで深みのある味わいが楽しめます。
中細ストレート麺は地元製麺所「岡田製麺」の特注品を使用し、チャーシューや薬味も工夫されています。観光客にも地元民にも愛され、函館塩ラーメンのスタンダードとして知られています
- 住所:北海道函館市五稜郭町29-22
- 電話番号:0138-51-8373
- 営業時間:11:00~20:25(LO)
- 定休日:第四水曜(祝祭日の場合翌平日)
- URL:https://ajisai.tv/
自宅で楽しむ函館ラーメン

本格的な塩スープを作るコツ
函館ラーメンのスープを自宅で再現するポイントは、「透明感のある旨味」にあります。鶏ガラと豚骨を水から弱火でじっくり煮出すことが基本。ここに昆布や煮干しを加えて魚介の風味をプラスします。脂を丁寧に取り除くことで、クリアな仕上がりになります。
自宅での簡易版としては、良質な鶏ガラスープの素に昆布茶を加えるという方法も。市販の昆布だしと鶏ガラスープを1:2の割合で混ぜ、塩で調整すれば、手軽に函館風の味わいが楽しめます。
函館ラーメンのアレンジレシピ
自宅で楽しむなら、函館の食材を活かしたアレンジもおすすめ。
函館海鮮塩ラーメン:基本のスープに、ボイルしたエビやホタテをトッピング。刻みネギと少量の柚子皮を加えれば、香り高い一杯に。
バター風味の函館ラーメン:熱々のスープに北海道産バターを少量浮かべる。トウモロコシとの相性も抜群で、より北海道らしい味わいに。
冷やし函館ラーメン:夏場は麺を冷水でしめ、冷やしたスープで楽しむ方法も。レモンスライスと共に爽やかな一杯に。
函館ラーメンにまつわる豆知識
知られざる函館ラーメンの真実
函館ラーメンは、北海道三大ラーメンに数えられることがありますが、実は地元では「函館ラーメン」という呼び名をあまり使いません。地元の人々にとっては単に「ラーメン」や「塩ラーメン」であり、外部からの呼称が定着したものなのです。
また、函館の製麺所は水質にこだわっています。函館の水は軟水で、これが麺の食感に大きく影響。麺の製造過程で函館の水が使われるのは、このためなのです。
意外な事実
函館ラーメンと札幌ラーメンには「兄弟関係」があります。両者とも中華系移民の影響を受けていますが、函館は海との関わりから魚介系の出汁を重視し、札幌は農業が盛んな土地柄から味噌や野菜を活かす方向へ進化。同じ北海道でも環境によって異なる発展を遂げました。
また、函館ラーメンの老舗の多くは、朝から営業しています。これは函館が港町であり、早朝から活動する漁業関係者が多かったため。朝ラーメンの文化は、函館の生活リズムと密接に関わっているのです。
まとめ:函館ラーメンの魅力と楽しみ方
函館ラーメンは、透き通った塩スープと細麺が織りなす上品な味わいが特徴。港町・函館の海の恵みと歴史が生んだ、奥深い一杯です。札幌や旭川のラーメンに比べて全国的な知名度はやや低いものの、その繊細な味わいはラーメン通の間で高く評価されています。
自宅で本格的な函館ラーメンを楽しむなら、当店の「函館塩ラーメンセット」がおすすめ。北海道の新鮮な食材と組み合わせれば、函館にいるような本格的な味わいを体験できます。
北海道ラーメン巡りの旅を計画しているなら、函館ラーメンはぜひ外せない一品。また、ご自宅でじっくりと函館ラーメンの奥深さを味わうのも、ラーメン通への第一歩となるでしょう。透き通ったスープに浮かぶ麺と具材の美しさも含めて、函館ラーメンの真髄をぜひ体験してみてください。
スープに昆布出汁を加えて、函館ラーメンを再現
マルメン製麺所が販売している「阿波尾鶏塩ラーメン」。阿波尾鶏からとった良質な鶏のスープのラーメンに、昆布出汁を加えて函館ラーメンを簡単に再現してみましょう。