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なぜ今、白河ラーメンなのか

豚骨や鶏ガラを主体とした醤油ベースの澄んだスープと、スープが絡みやすい多加水の幅が広い縮れ麺が大きな特徴である白河ラーメン。しかし、それだけでは語り尽くせない魅力が、福島県白河市には息づいています。
「日曜日開店前30分について、48組待ち」――白河ラーメンなら基準は此方でしょう。と思い並ぶの承知で妻と訪問。日曜日開店前30分について、48組待ち入。これは、白河を訪れたラーメンファンの実体験です。なぜ人々は、わざわざ東京から新幹線で1時間半もかけて、この地を目指すのでしょうか。
一方で、「醤油をお湯で薄めたスープ?」という辛辣な意見も。白河ラーメンの特徴なのか、味が薄い。手打ちラーメンを頼みましたが、醤油をお湯で薄めたスープ?と思うようなダシも感じられない薄さという失敗談も存在します。
ところが実際は、白河は全国的にも知られるラーメン処で、市内には100軒近くの味自慢の店があります。さらに驚くべきことに、全国クラスの名店BIG3(「とら食堂」「火風鼎」「手打中華 すずき」)をはじめ、本拠地である白河市はもちろん、その周辺エリアの実力店も含め50を優に超える店舗が存在。まさにラーメンの聖地なのです。
本記事では、白河ラーメンの奥深い世界を、実際の体験談や失敗談、そして地元でしか得られない情報を交えながら徹底的に解説していきます。
100年を超える歴史と知られざる起源
明治時代から始まった壮大な物語
実は、白河ラーメンの歴史は明治時代にさかのぼります。全国各地のラーメンのルーツは屋台が主流であったのに対し、白河は店舗が始まりでした。

明治20年(1887年)のこと。木伏源兵衛は「亀屋」というお汁粉屋を始めます。しかしお汁粉屋では夏場人が入らないという悩みがあり、そこで息子の木伏源松がひらめいたのは白河にはまだどこにもない支那そばでした。
大正時代の革新的な挑戦
しかしながら、一般的には「白河ラーメンといえば喜多方より新しい」という認識があります。
ところが驚くべき事実が。実は白河ラーメンの歴史は喜多方ラーメンより古い。昭和2年発祥の喜多方ラーメンに対して、白河ラーメンは大正10年とのこと。つまり、白河ラーメンの方が6年も先輩なのです!
大正10年(1921)、横浜での修業を経て、源松は手打ちラーメン屋「亀源」を創業。これが白河ラーメンの原点となりました。
「とらさん」伝説の始まり
そして昭和の時代。白河で最初に中華そばを出したのは昭和10年ごろのこと。屋号は「一六軒」。そして、その後「○イワンタン」という屋台が中華そばを出して人気を呼ぶ。
ここで登場するのが、伝説の人物・竹井寅次氏。とらさんこと故竹井寅次氏は、「フーテンの寅」を地でゆく酒とばくちざんまいの生活を送っていたという破天荒な人物でした。
1969年、転機となる「とら食堂」の誕生

「なんで、酒とばくち好きの人が作るラーメンが美味しいの?」
確かに不思議ですよね。けれども、1969年開店のとら食堂が白河手打ちラーメンの元祖とされるのには理由があります。
竹井寅次はこの屋台で修業をし、木の棒を使った手打麺の技術を覚え、とら食堂という店を出した。そして同店の初代店主である竹井寅次が作るラーメンが美味しいと評判になったことから、市内から弟子入りを志願する人達が竹井の元を訪れるようになり、白河ラーメンの礎を築いたのです。
現在では、とらさんはアルコール片手にラーメンの技術を弟子たちに伝え、広めていった結果、「とら系」と呼ばれる一大系統が誕生。まさに、破天荒な天才が生み出した奇跡といえるでしょう。
手打ち麺の芸術――職人技が生み出す唯一無二の食感
そば打ち技法から生まれた革新

「え、ラーメンなのに、そば打ち?」
実は、そば職人がそば打ち技法で作り始めたことから「手打ちのちぢれ麺」が誕生したといわれています。これこそが、白河ラーメンの最大の特徴なのです。
木の棒で打つ伝統技法
一般的な製麺とは全く異なる製法。伝統的には、木の棒で麺を打ち、包丁で切り出し、手で揉んで縮れをつけるという、まるで芸術作品を作るかのような工程です。
しかし残念ながら、木の棒で麺を打つ手打ち麺が伝統的なスタイルだが、最近は減少傾向にあるのが現実。
多加水麺がもたらす独特の食感
では、どんな食感なのでしょうか。
多加水の幅広縮れ麺が最大の特徴で、手打ちの割合は近年減っては来ているが、喜多方以上にピロピロ感のある麺はとてもよくスープを絡める。
実際に食べた人の感想では、「プニプニちぢれ麺」「もちもち」「ピロピロ感」といった表現が。さらに火風鼎の麺については、少しぼそっとした口当たりと小麦の香りがこれでもかというレベルで口いっぱいに広がる麺は、絶対に他のお店では味わうことができないという独特さ。
店ごとに異なる個性
「全部同じ手打ち麺でしょ?」と思われがちですが、実は店によって全く違います。
例えば、手打中華すずきはコシとモチモチ感が抜群の手打ちの平打極太縮れ麺。一方で英(はなぶさ)はのど越し、食感が良い若干細めの縮れ麺というように、それぞれの店が独自の技法を追求しているのです。
澄んだスープに隠された深い旨味の秘密
基本は鶏ガラと豚骨の絶妙なハーモニー

「あっさりしているから、味が薄いんでしょ?」
いいえ、そんなことはありません!豚骨や鶏ガラを主体とした醤油ベースの澄んだスープは、見た目以上に奥深い味わいを持っています。
店ごとの独自性
とら食堂では、鶏ガラ(とりがら)は3~4種類使うことでラーメンスープに深みを持たせているという徹底ぶり。
手打中華あずま食堂の場合は、魚介を一切使っていないというスープのベースは鶏ガラ・丸鶏・豚げんこつ。さらに、ネギと玉ねぎを加えこれらをじっくりと煮込んだシンプルな旨味が凝縮された出汁という独自の手法を採用。
継ぎ足しの醤油ダレという秘密兵器
さらに驚くべきは醤油ダレ。開店以来継ぎ足されているという醤油ダレが、スープ全体コクと旨味を見事に一つにまとめ上げています。
火風鼎では、3種類の醤油を継ぎ足しているそう。ご主人は、火事になったらこれを持って逃げるとのこと。うなぎ屋さんみたいですね(笑)という逸話も。
赤縁のチャーシューに込められた職人の想い
炭火で焼く伝統製法

白河ラーメンの特徴的なトッピングといえば、縁を食紅で塗り、炭火で焼いてから煮るチャーシューを使う店も多いという独特のチャーシュー。
なぜ赤い縁なのか
「なんで赤いの?見た目だけ?」
実は、これには理由があります。とら食堂では燻製風の蒸し焼きチャーシューは、七輪の炭火でじっくりと豚肉をいぶし醤油だけで煮込んでおり、とても美味しいという製法。赤い縁は、炭火で焼いた証なのです。
店によって異なるチャーシューの個性
しかし、全ての店が同じではありません。
例えば、手打中華すずきのチャーシューは脂身のない、もも肉タイプ。一方で、麺しょう 白河店では、中華そばにもチャーシューはなんと全て違う味わいなんです!脂身が多い王道チャーシュー。燻製の効いた噛みごたえのあるチャーシュー。味が染みたジュワッとしたチャーシューという贅沢な構成。

ワンタンという名脇役
さらに忘れてはいけないのがワンタン。まるや食堂でワンタン麺を出すようになって、ワンタンが定番化した歴史があるので、多くのお店でワンタン麺が食べられます。
地元民だけが知る「正しい」食べ方
まずはコショウを入れない!
「ラーメンといえば、まずコショウでしょ?」
ちょっと待って!はじめにコショウを入れすぎない 白河ラーメンはかなり繊細な味です。はじめからコショウを入れると素材の味を殺してしまい、本来の鶏ガラスープの味ではなくなります。
玉ねぎという秘密兵器

多くの店のテーブルには、刻み玉ねぎが置かれています。卓上のタマネギをひとさじ入れると八王子系に似たシャキシャキ感や味変を楽しめる。野菜の甘みを感じるスープは衝撃という声も。
ワンタン麺を頼むべき理由

まるや食堂でワンタン麺を出すようになって、ワンタンが定番化した歴史があるので、多くのお店でワンタン麺が食べられます。肉の味がしっかり感じることができるので、ワンタン麺があればなるべくオーダーすることをおすすめします。
実際、とら食堂でも手打中華すずきでも、ワンタン麺の方がチャーシュー麺より高い価格設定。これには理由があるのです。
時間帯による楽しみ方
とら食堂の営業時間は独特。午前中と午後の営業時間がありますが、16時〜18時と特殊な時間帯の為、午後の部の方が比較的入りやすいようです。
名店巡礼――絶対に外せない白河ラーメンBIG3
とら食堂:すべての始まりの店

なぜ行列ができるのか
白河ラーメンの元祖である「とら食堂」(白河市で最初のラーメン店ではない)には、50台近く駐車できる大きな駐車場がある。驚いたことに、その駐車場があふれんばかりに車が止められ、これまた50席はゆうにある客席に座りきれない客が行列となって入口付近で待っているのである。
実際の体験談では、新白河駅前のバス停からとら食堂方面へ向かうバスの時刻表です(一番左の「刈敷坂経由石川」がそのバスです)。これによると、朝8:40のバスを逃すと次にバスが来るのがお昼の12:35。そう、開店時間に間に合わないわけですという驚きの事実が。
味の特徴
豚骨と鶏ガラを煮込んで作られたコクのある濃い醤油味のスープとふとめののど越しの良い手打ちちぢれ麺の相性は抜群。スープも最後まで飲み干したい深みのある味わいが特徴です。
基本情報
- 住所:〒961-0017 白河市双石滝ノ尻1
- 電話番号:Tel・Fax.0248-22-3426
- 営業時間:火~金 11:00〜14:30、16:00〜18:00(材料がなくなり次第終了) 土日 11:00~14:00 、16:00~18:00
- 定休日:月曜日
火風鼎(かふうてい):独自の道を行く名店

唯一無二の麺
火風鼎の最大の特徴は、その独特な麺。多加水麺が特徴の白河ラーメンだが、火風鼎の麺は一味違う。なんと言っても、驚くのはその食感。少しぼそっとした口当たりと小麦の香りがこれでもかというレベルで口いっぱいに広がる麺は、絶対に他のお店では味わうことができない。
こだわりが強く、冷凍することに相当葛藤した店主は、茹でる際、お客様にとにかく麺を傷つけないよう、優しく丁寧に扱ってもらいたいと、願っているという職人魂も。
継ぎ足し醤油の秘密
3種類の醤油を継ぎ足しているそう。ご主人は、火事になったらこれを持って逃げるとのこと。まるでうなぎ屋のタレのような、秘伝の醤油ダレが味の決め手となっています。
基本情報
- 住所:白河市鬼越44-16
- 電話番号:Tel.0248-22-8314
- 営業時間:11:00〜売り切れ次第終了
- 定休日:火曜日
手打中華すずき:とら食堂直系の正統派

とら食堂の味を受け継ぐ
こちらは業41年目を迎える老舗であり、店主は「とら食堂」の先代である「竹井寅次」氏の元で修行された方との事です。
白河ラーメンの神髄「とら食堂」の弟子筋店で、師匠の味を真っすぐ伝承するお店として有名なお店です。
チャーシューへのこだわり
特徴的なのは、チャーシューは脂身がなく美味しくないかもしれません…なので、チャーシュー麺はお勧めしません。シンプルに中華そばが良いかもしれませんという意見も。しかし逆に、脂身が苦手な方には最高のチャーシューともいえるでしょう。
基本情報
- 住所:白河市瀬戸原4-9
- 電話番号:Tel.0248-22-3392
- 営業時間:11:30〜15:00(材料がなくなり次第閉店)
- 定休日:火・水曜日(祝日の場合は振替)※臨時休業有 ※注:定休日については複数の情報源で異なる記載があるため、訪問前に確認することをおすすめします。

自宅で楽しむ白河ラーメン――本格レシピと再現のコツ
スープ作りの基本
「家でも作れるの?」
はい、作れます!ただし、かなりの手間がかかります。
材料(4人分)
鶏ガラ(とりがら)は3~4種類使うことでラーメンスープに深みを持たせていることを参考に、以下の材料を準備:
動物系スープ
- 水:3リットル
- 親丸鶏(半身):500g
- 鶏ガラ:450g(できれば銘柄鶏)
- 豚背ガラ:250g
- 昆布:40g
- ネギ:100g
- タマネギ:150g
- ニンニク:10g
- ショウガ:10g
スープの取り方
最も重要なのは、沸騰しないように出汁を取りますという点。白河ラーメンの澄んだスープを再現するには、温度管理が命です。
- 鶏ガラと豚骨を下茹でして血抜きをする
- 新しい水に入れ、80〜85度を保ちながら3〜4時間煮込む
- 途中で昆布を入れて旨味を補強
- 香味野菜を最後の1時間で投入
- 丁寧に濾して完成
手打ち麺への挑戦
「手打ち麺なんて無理でしょ?」
確かに本格的な手打ち麺は難しいですが、家庭でも近い食感は再現できます。
材料(4人分)
- 中力粉:300g
- 強力粉:200g
- 塩:5g
- かんすい:23g
- 水:適量(粉の40〜45%)
製麺のコツ
伝統的には、木の棒で麺を打ち、包丁で切り出し、手で揉んで縮れをつけるという工程を、家庭では以下のように再現:
- 粉類を混ぜ、塩とかんすいを溶いた水を少しずつ加える
- 生地をまとめ、30分寝かせる
- めん棒で3〜4mmの厚さに伸ばす
- 包丁で3〜4mm幅に切る
- 手で軽く揉んで縮れをつける
醤油ダレの調合
材料
- 濃口醤油:100ml
- 生醤油:50ml
- みりん:20ml
- 酢:10ml
- チャーシューの煮汁:50ml(あれば)
全ての材料を混ぜ、一晩寝かせることで味がまとまります。
チャーシューの作り方
縁を食紅で塗り、炭火で焼いてから煮るチャーシューを家庭で再現するには:
- 豚モモ肉の表面に食紅を薄く塗る(なくても可)
- フライパンで表面を焼き色がつくまで焼く
- 醤油、みりん、酒で煮込む(30分程度)
- 薄切りにして完成
盛り付けのポイント
具はネギ、チャーシュー、メンマ、鳴門巻き、ホウレンソウなどを基本に:
- 丼に醤油ダレ大さじ2を入れる
- 熱々のスープ300mlを注ぐ
- 茹でた麺を入れる
- トッピングを美しく配置
- 刻み玉ねぎを添える

知られざる白河ラーメンの豆知識
実は喜多方より歴史が古い
前述の通り、実は白河ラーメンの歴史は喜多方ラーメンより古い。昭和2年発祥の喜多方ラーメンに対して、白河ラーメンは大正10年。この事実、意外と知られていません。
屋台ではなく店舗から始まった珍しいラーメン
全国各地のラーメンのルーツは屋台が主流であったのに対し、白河は店舗が始まりでした。これは日本のラーメン史において極めて珍しいケースです。
「とら系」という一大勢力
今では孫弟子さん達が独立して白河ラーメンの店をオープンするようになり、とら食堂の流れを汲むラーメン屋一門を表す「とら系ラーメン」という言葉もできているほどの一大勢力になっています。
全国に広がるとら系の店舗は、それぞれが独自の進化を遂げながら、白河ラーメンの精神を受け継いでいます。
市内に100軒!人口比では日本一?
白河は全国的にも知られるラーメン処で、市内には100軒近くの味自慢の店があります。白河市の人口は約6万人。つまり、600人に1軒の割合でラーメン店が存在することに!
高校生限定サービスという地域愛
ランチタイムだと半ライスが無料にる他、高校生限定で、大盛や特盛サービスがあるのもうれしい地元でも人気のラーメン店(英)のように、地元の若者を応援する店も。
白河ラーメンが教えてくれること
100年の歴史が紡ぐ、唯一無二の味
明治の汁粉屋から始まり、大正時代の挑戦、そして昭和の天才・とらさんによって花開いた白河ラーメン。こだわりを持って、店の美味しさを日々追求する。そうした店主たちの思いが、今の白河ラーメン文化を築いているのです。
失敗を恐れずに、まずは一歩を
確かに、味が薄いと感じる人もいるでしょう。でも、それは白河ラーメンの繊細な味わいを理解する前の話。コショウを入れずに、まずは素材の味を感じてみてください。
次の白河ラーメン巡りへ
市内観光を挟む ずっとラーメンを食べ続けていたら胃がもたれてきます。実は白河は観光スポットもたくさんあります。白河小峰城や南湖公園など、ラーメン巡りの合間に訪れれば、より充実した旅になるはずです。
白河ラーメンは、単なるご当地グルメではありません。100年以上の歴史と、職人たちの魂が込められた、日本のラーメン文化の宝物なのです。
さあ、次の週末は、新幹線に乗って白河へ。あなたを待っているのは、人生を変える一杯かもしれません。
【編集部より】本記事は2025年9月時点の情報に基づいています。店舗情報は変更になる可能性がありますので、訪問前に最新情報をご確認ください。