この記事のもくじ
はじめに
秋田県由利本荘市に息づく「本荘しねにぐラーメン」をご存知でしょうか。「しねにぐ」という独特の響きには、この地に根ざした深い食文化と方言が込められています。親鶏の噛み応えのある食感を「しねぇ」と表現する地元の言葉から生まれたこのラーメンは、単なるご当地グルメを超えた、由利本荘市民の生活に密着したソウルフードです。朝から食べられる「朝ラー」文化の中核を担い、親鶏の深い旨味と秋田の人々の暮らしが織りなす、他では味わえない特別なラーメンをご紹介します。
1. 本荘しねにぐラーメンの歴史と起源
発祥の経緯

本荘しねにぐラーメンのルーツは、由利本荘市の親鶏文化に深く根ざしています。由利本荘市では親鳥をつかった「中華そば」がソウルフードとして親しまれており、この伝統が「しねにぐラーメン」という名称で呼ばれるようになりました。
由利本荘市では若鶏ではなく親鶏を好んで食べる習慣が古くからあり、その食感を「しねぇ」と表現する地域文化が根付いています。「しねにぐ」という名前は、この「しねぇ」(固い、歯ごたえがある)という秋田弁と、「しんどい」や「疲れる」を意味する秋田の方言「しねにぐ」が組み合わさったものと考えられています。
時代による変遷
戦後の復興期から高度成長期にかけて、由利本荘市では朝早くから働く人々のために、早朝からラーメンを提供する「朝ラー」文化が発達しました。朝9時とかから営業している店舗が多く、朝ラーにも最適な環境が整備されています。
明治時代創業の老舗そば店を前身とする店舗も多く、明治時代に創業した『加藤そばや』というのが前身らしいという記録もあり、長い歴史を持つ食文化であることがわかります。
重要な歴史的転換点
昭和後期から平成にかけて、由利本荘市の朝ラー文化は地域外にも注目されるようになりました。由利本荘市には朝ラーの文化があります。その走りもこちら「清吉そばや」さんなのですという証言が示すように、特定の店舗が朝ラー文化の発展に大きく貢献しました。
地域文化との関わり
本荘しねにぐラーメンは、秋田の方言文化と密接に関連しています。濁音は東北方言の特徴ともいえますが、秋田弁も「かきくけこ」「たちつてと」は「がぎぐげご」「だぢづでど」と濁音で発音しますという秋田弁の特徴も、「しねにぐ」という響きに表れています。
2. 本荘しねにぐラーメンの基本的な特徴の詳細解説

スープの特徴
本荘しねにぐラーメンの最大の特徴は、親鶏を使った深いコクのあるスープです。鶏の旨味たっぷりのしょうゆ味で、親鶏の深い旨みがじんわり広がるのが特徴です。
出汁の取り方:
- 親鶏のガラと肉をじっくりと煮込む
- 鶏殻中心で、鰹節や昆布出しも追加
- かなりアッサリではありますが、旨味はガツンと効いてます
- 表面の鶏脂がコクを増します
麺の特徴
麺質:
- 中細のストレート麺が基本
- 少し柔目な麺。なんか独特な触感というかモチッと感
- 親鶏の旨味スープとの絡みを重視した製法
特徴的なトッピングとその意味

親鶏肉(しねぇ肉):
- チャーシューではなく、親鳥の煮込みが付け合わせしてあるのが特徴
- 噛み切りにくい親鳥ですが、噛めば噛むほど濃厚なうま味が出てきてクセになる味わい
- 噛むほど美味しい鶏チャーシューも最高
天かす:
- トッピングに天かすときざみネギをたっぷり乗せて召し上がれ
- 添えられた天かすを追加すると以外にコクが出て大満足
- 天かすは、デフォで付いてきます
提供方法の特徴
温度管理:
- 朝の寒い時間帯でも体が温まる熱々の状態で提供
- スープの表面に浮かぶ鶏脂が保温効果を高める
器:
- 伝統的な中華そば用の丼を使用
- スープの色が映える白い陶器が多い
3. 地元での食べ方

地元民が好む食べ方
由利本荘市の地元民は、まず親鶏肉の「しねぇ感」を楽しみながらゆっくりと噛みしめます。スープを飲みながらチャーシュー代わりの鶏肉をボリボリと(本当にこんな音です)食べるのが地元流です。
天かすは途中で追加して味の変化を楽しむのが一般的で、ラーメンに天かすを入れられるシステムを採用している店舗も多くあります。

特別なオーダー方法
朝ラースタイル:
- 朝だったため注文は中華そばしかできませんでしたという店舗も多い
- 朝の時間帯は中華そば一品勝負の店が多数
量の調整:
- 並盛りと大盛りの選択が基本
- 大盛りがお腹の中に消えていましたと表現されるほど食べやすい
時間帯による楽しみ方の違い
朝(7:00-9:00):
- 朝9時とかから営業しているので朝ラーにも最適
- 仕事前の活力源として
- メニューが中華そばに限定される店舗が多い
昼(11:00-15:00):
- より豊富なメニューから選択可能
- 観光客も多く訪れる時間帯
店によるバリエーション
各店舗独自の特徴があり、スープの濃さ、麺の硬さ、親鶏肉の煮込み具合などに違いがあります。中華そばと一口に言っても店によってかなり味が違いますので、食べ比べを楽しむ地元民も多くいます。
4. 有名店の紹介
清吉そばや(朝ラーの聖地)

由利本荘市には朝ラーの文化があります。その走りもこちら「清吉そばや」さんなのです
特徴:
- 明治時代に創業した『加藤そばや』というのが前身らしい
- 数年前に建替えしたので、外観はすっかりモダン和風に
- 朝開店直後から1時間ほどは、ほぼ満車に
人気の理由:
- ホテルから徒歩圏内で駐車場もそこそこあり、回転も速い
- 甘めのスープが特徴
- 何も考えず黙々と食べれる中華そば
店舗情報
- 住所:秋田県由利本荘市本荘105
- 電話番号:0184-22-1221
- 営業時間:平日9時〜17時50分
- 定休日:火曜日
ゑびすや(矢島の名店)

特徴:
- 「あの生姜ラーメン」と大きく看板に掲げたラーメン店
- かつて矢島の別の場所にあった「ゑびすや」の生姜ラーメンの味を再現した店
- 生姜の効いた独特のスタイルで親鶏ラーメンを提供
店舗情報
- 住所:秋田県由利本荘市矢島町城内築舘146-1
- 電話番号:0184-55-3555
- 営業時間:平日11時〜14時00分、土日7時00分〜9時と11時〜14時00分
- 定休日:水曜日

5. 本荘しねにぐラーメンを自宅で楽しむ方法
基本レシピ
材料(4人分):
- 親鶏もも肉:400g
- 親鶏ガラ:1羽分
- 鰹節:30g
- 昆布:10cm
- 醤油:大さじ4
- 中華麺:4玉
- 天かす:適量
- 刻みネギ:適量
作り方:
- 出汁取り(3-4時間):
- 親鶏ガラを水から煮込み、アクを丁寧に除去
- 3時間煮込んだ後、鰹節と昆布を加えてさらに30分
- 親鶏肉の煮込み(1時間):
- 親鶏もも肉を別鍋で1時間ほど煮込む
- 醤油と少量の砂糖で味付け
- 仕上げ:
- 出汁に醤油タレを加えて味を調整
- 茹でた麺を器に入れ、熱いスープを注ぐ
- 煮込んだ親鶏肉、天かす、刻みネギをトッピング
本格的な味を再現するコツ
親鶏の選び方:
- 若鶏ではなく、必ず親鶏(廃鶏)を使用
- 肉質が固いほど旨味が濃い
出汁のポイント:
- 長時間煮込むことで親鶏特有の深いコクを抽出
- アクを丁寧に取り除いて澄んだスープに仕上げる
- 鰹節は最後に加えて上品な和の香りをプラス
必要な材料と代用できるもの
親鶏の代用:
- 手羽元や手羽先を多めに使用
- 鶏むね肉に鶏皮を加えて煮込み時間を延長
出汁の代用:
- 市販の鶏ガラスープの素に鰹だしを追加
- 白だしと薄口醤油を組み合わせて使用
アレンジアイデア
味変アレンジ:
- 生姜のすりおろしを加えて体を温める
- 一味唐辛子で辛味をプラス
- 溶き卵を加えてまろやかに
トッピングアレンジ:
- 煮卵やもやしを追加
- 海苔やメンマで食感の変化を楽しむ
- 大根の煮物を小皿で添える(三浦食堂スタイル)

本荘しねにぐラーメンにまつわる豆知識
あまり知られていない事実
方言の深い意味: 「しねにぐ」という言葉は、「死(し)んたげ腹減(はらへ)った 【死ぬほど腹が減った】」のように、秋田弁では「死ぬほど」という強調の意味でも使われます。つまり「本荘しねにぐラーメン」は「死ぬほど固い親鶏のラーメン」という意味も込められているのです。
朝ラー文化の背景: 由利本荘市には朝ラーの文化がありますが、これは港町として栄えた由利本荘市で、早朝から働く漁師や港湾労働者のために発達した文化です。
面白いエピソード
親鶏の音: チャーシュー代わりの鶏肉をボリボリと(本当にこんな音です)食べという表現があるように、親鶏肉を噛む音が店内に響くのも本荘しねにぐラーメンの特徴の一つです。
システムの特徴: 多くの店で店内に入ったら目の前のレジで先に注文と支払いを終わらせプラ券をもらい着席という独特のシステムが採用されており、効率的な朝ラー提供を可能にしています。
他のラーメンとの比較
十文字ラーメンとの違い: 同じ秋田県内でも、秋田県横手市十文字地域を中心とする地域で食されるラーメンで、「十文字中華そば」とも表する。あっさりとした醤油味で煮干や鰹節などを出汁に使用した和風のスープとカンスイを全く用いず独特の食感をもつ細い縮れ麺が特徴である十文字ラーメンとは、親鶏使用の有無で大きく異なります。
秋田市内のラーメンとの違い: 秋田市内では豚骨や味噌ベースのラーメンが多い中、由利本荘市は親鶏文化が色濃く残る特異な地域として注目されています。

7. 栄養価と健康効果
親鶏肉の栄養価
高タンパク質: 親鶏肉は若鶏よりもタンパク質含有量が高く、筋肉の維持や疲労回復に効果的です。
低脂肪: 長期間育成された親鶏は脂肪分が少なく、ヘルシーな食材として注目されています。
コラーゲン豊富: 長時間煮込むことで溶け出すコラーゲンは、美肌効果や関節の健康維持に寄与します。
朝食としての効果
代謝向上: 朝からタンパク質を摂取することで、一日の代謝を高める効果が期待できます。
満腹感の持続: 親鶏肉の噛み応えにより咀嚼回数が増え、満腹中枢が刺激されて過食を防ぎます。
8. 観光と地域振興

観光資源としての価値
本荘しねにぐラーメンは、由利本荘市の重要な観光資源として位置づけられています。「あぁ~、由利本荘市に来た!」と実感できる地域性の強い食文化として、観光客に強い印象を与えています。
地域ブランディング
由利本荘市の食文化PR: 由利本荘市では親鳥をつかった「中華そば」がソウルフードとして、市の公式ウェブサイトでも積極的にPRされています。
朝ラー文化の発信: 全国的にも珍しい朝ラー文化は、由利本荘市の独自性を示す重要な要素として注目されています。
9. 本荘しねにぐラーメンまとめ

本荘しねにぐラーメンは、単なるご当地グルメを超えた、由利本荘市の生活文化そのものです。親鶏を「しねぇ」と表現する方言、朝から楽しむ「朝ラー」文化、そして何より噛めば噛むほど深まる親鶏の旨味が、この地域独特のラーメン文化を形成しています。
重要なポイント:
- 親鶏使用による独特の食感と深い旨味
- 「しねにぐ」という方言に込められた地域性
- 朝ラー文化との密接な関係
- 長い歴史を持つ伝統的な食文化
- 栄養価の高さと健康効果
自宅で試してみることの提案
まずは近所の食材店で親鶏肉を探してみてください。手に入らない場合は、手羽元を多めに使用して長時間煮込むことから始めてみましょう。天かすと刻みネギは必須のトッピングです。最初は市販の鶏ガラスープの素をベースに、鰹だしを加えることで、本荘しねにぐラーメンの特徴的な味わいに近づけることができます。
現地訪問の推奨
本当の本荘しねにぐラーメンを味わうには、やはり由利本荘市を訪れることをお勧めします。早朝の清吉そばやで地元の人々と一緒に朝ラーを楽しむ体験は、このラーメンの真髄を理解する最良の方法です。
本荘しねにぐラーメンは、食べる人に「しねにぐ」(疲れる)ほどの満足感を与えてくれる、まさに秋田の宝といえるラーメンです。一度その味わいを知れば、きっと病みつきになること間違いありません。ぜひ、この特別なラーメン体験をお楽しみください。