この記事のもくじ
透き通る出汁の魅力:知れば知るほど深まる十文字ラーメンの世界
秋田県横手市十文字町周辺で愛されてきた「十文字ラーメン」は、その澄み切った透明スープと独特の細麺で、ラーメン通をも魅了する奥深い味わいを持っています。人口わずか1万5000人ほどの町に約50軒ものラーメン店があるという驚異的な「ラーメン激戦区」として知られ、近年では横手焼きそばと並ぶ秋田県南部を代表する食の観光資源として注目を集めています。シンプルながらも奥深い味わいと独自の食文化が息づくこの郷土ラーメンの魅力に迫ります。
十文字ラーメンの歴史と起源

昭和初期に誕生した郷土の味
十文字ラーメンの歴史は1935年(昭和10年)頃にまでさかのぼります。マルタマ(まるたま食堂)が創業したのが始まりとされ、当時は「支那そば」と呼ばれていました。伝承によれば、中国人が作る「支那そば」を真似て始められたとも言われています。
労働者に愛された軽食
十文字ラーメンはそのあっさりとした味わいから、かつて重労働の多かった時代に「おやつ代わり」として親しまれていました。軽く食べられるという特徴が、地元の人々の日常に深く根付いていったのです。時代とともに発展しながらも、その本質的な「あっさり感」は今も守られ続けています。
地域に根付いた食文化へ
時代の変化とともに独自の進化を遂げ、十文字地域独特の「地ラーメン」として確立されていきました。2005年に十文字町が横手市と合併した後も、十文字ラーメンの文化は地域のアイデンティティとして大切に受け継がれています。今では「横手市十文字町」という地名と共に、この地域を代表する食文化として多くの人々に愛されています。
十文字ラーメンの基本的な特徴の詳細解説

透明感あふれる和風スープ
十文字ラーメンの最大の特徴は、その澄み切った透明感のあるスープにあります。煮干しや鰹節、昆布などの魚介系の出汁をベースに、あっさりとした醤油味に仕上げています。油分が少なく、具材が上からはっきりと見えるほど透明度が高いのが特徴です。まるで和食の「おつゆ」に近い感覚のスープは、化学調味料に頼らない自然な旨味が特徴で、飲み干したくなる優しい味わいです。
かんすい不使用の細縮れ麺
十文字ラーメンのもう一つの大きな特徴は、通常の中華麺では必須とされる「かんすい」(アルカリ剤)を全く使用していない点です。代わりに片栗粉を使用することがあり、そのため麺は白みがかっており、独特の食感を生み出しています。極細の縮れ麺は、そうめんに似た喉越しの良さがありながらも、スープをしっかりと絡め取る設計になっています。この麺は多くの店で自家製であり、店によって微妙に異なる食感を楽しむことができます。
地元ならではの特徴的トッピング
十文字ラーメンには、チャーシュー、ねぎ、メンマといった一般的なラーメンの具材に加え、特徴的なものとして「麸」(ふ)と「蒲鉾」(かまぼこ)がトッピングされることが多いです。特に大きな麸は十文字ラーメンを象徴する存在で、スープの旨味をたっぷり吸い込み、箸休めとしても絶好の具材となっています。これらのトッピングはシンプルながらも、スープとの相性を考慮して厳選されています。
盛り付けと提供方法
一般的に十文字ラーメンは、シンプルな白い丼に盛られ、トッピングも控えめに配置されます。透明なスープを活かすシンプルな盛り付けは、素材の良さと職人の技を表現する手段として大切にされています。価格も比較的リーズナブルで、500円前後から楽しめる店が多く、地元の日常食として長く愛されてきた背景がうかがえます。
地元での食べ方

本場流の楽しみ方
地元の人々は十文字ラーメンを「余計なものを加えずにそのままの味わいを楽しむ」のが基本です。背脂やラー油などの追加調味料は使わず、必要に応じて途中から胡椒を少し振る程度で食べるのが地元流です。スープの透明感と麺の食感を楽しむために、麺をすすって勢いよく食べる方も多いです。
季節による楽しみ方
秋田の厳しい冬には体が温まる熱々のラーメンとして、暑い夏には「冷やし十文字ラーメン」として季節に合わせた食べ方も広がっています。特に夏バテ時期には、あっさりとしたスープと細麺の組み合わせが胃にも優しく、食欲が落ちた時期にも食べやすいと言われています。
お店によるバリエーション
基本的には同じスタイルを守りながらも、店によって麺の太さや縮れ具合、スープの濃さなどに微妙な違いがあります。地元の人々は、その日の気分や体調に合わせて店を使い分けることもあります。チャーシューを豪快にトッピングした「チャーシューメン」や、麸を追加するなどの小さなカスタマイズを楽しむ方も多いです。
十文字ラーメンの有名店紹介
元祖十文字中華そばマルタマ

十文字ラーメン発祥の店として知られる「マルタマ」は、昭和10年(1935年)の創業以来、伝統の味を守り続けています。透明感のある薄口の醤油味スープと自家製の細麺が特徴で、シンプルながらも深い味わいの「中華そば」は500円とリーズナブル。県内外から多くのファンが訪れ、休日には行列ができる人気店です。
店舗情報
- 住所:秋田県横手市十文字町佐賀会上沖田37−8
- 電話番号: 0182-42-0243
- 営業時間:11時〜19時
- 定休日:火曜日
名代 三角そばや

十文字ラーメンの御三家の一つとして知られる「三角そばや」は、ほんのりダシが香る魚介系醤油味のスープが特徴です。和風のおつゆに近い風味のスープと細い縮れ麺の組み合わせが絶妙で、地元民からの支持も厚い店です。健康的なあっさりスープと大きな麸が特徴で、シンプルな味わいを求める方に人気があります。
店舗情報
- 住所:秋田県横手市十文字町梨木字羽場下63-1
- 電話番号: 0182-42-1360
- 営業時間:11時〜19時
- 定休日:火曜日
丸竹食堂

十文字ラーメンの御三家の一つである「丸竹食堂」は、煮干しのダシが効いた和風スープが特徴です。透明度が高く、具材や麺が上からしっかりと見えるスープは、体に優しい味わいが魅力です。細くてソーメンのような麺と澄んだスープの組み合わせは、十文字ラーメンの真髄を味わいたい方におすすめです。
店舗情報
- 住所:秋田県横手市十文字町本町7−1
- 電話番号: 0182-42-1056
- 営業時間:11時〜14時
- 定休日:木曜日

十文字ラーメンを自宅で楽しむ方法
本格的な味を再現するコツ
自宅で十文字ラーメンを再現する最大のポイントは、「透明感のある和風だしのスープ作り」にあります。煮干しと鰹節をベースに昆布を加えた出汁を丁寧に取り、良質な醤油で味付けするのがコツです。油分は控えめに使い、スープの透明感を損なわないようにしましょう。麺は市販の細麺でも代用できますが、できれば低加水の細い縮れ麺を選ぶと本場の味に近づきます。
自家製十文字ラーメンの詳細レシピ
自家製の十文字ラーメンを一から作る本格レシピをご紹介します。時間はかかりますが、手作りならではの満足感と味わいを楽しめます。
【材料】4人前
<スープ>
- 水:2リットル
- 煮干し:100g(頭と内臓を取り除くとより澄んだスープになります)
- 鰹節:30g
- 昆布:10cm角 1枚
- 鶏ガラ:100g(あれば。より旨味が増します)
- 薄口醤油:大さじ5
- 塩:小さじ2
- みりん:大さじ1
- 砂糖:小さじ1/2
<麺>
- 強力粉:300g
- 薄力粉:100g
- 水:160ml
- 塩:小さじ1
- 片栗粉:大さじ2(かんすいの代わりに使用)
<トッピング>
- チャーシュー:8枚(薄切り)
- 麸:4個(車麸がおすすめ)
- 茹でメンマ:適量
- 蒲鉾:8枚(薄切り)
- 小ねぎ:適量(小口切り)
- 海苔:4枚
【作り方】
<スープの作り方>
- 出汁をとる:鍋に水2リットルを入れ、昆布を入れて30分ほど浸す。弱火で温め、沸騰直前に昆布を取り出す。
- 煮干しを加える:鍋に煮干しを加え、弱火で15分ほど煮る。アクが出たら丁寧に取り除く。
- 鰹節と鶏ガラを加える:煮干しを取り出し、鰹節と鶏ガラを加えて10分煮る。火を止め、しばらく置いて旨味を出す。
- こす:キッチンペーパーや布巾などでこし、透明な出汁を別の鍋に移す。
- 味付け:出汁を再び火にかけ、薄口醤油、塩、みりん、砂糖を加えて味を調える。沸騰させずに、優しく溶かすように混ぜる。
- 完成:火を止め、スープを冷ます(完全に冷ます必要はなく、麺を入れるときに熱いほうが良い)。
<手作り麺の作り方>
- 材料を混ぜる:ボウルに強力粉、薄力粉、塩、片栗粉を入れて混ぜる。水を少しずつ加えながら、まとまるまで混ぜる。
- こねる:台の上で10分ほどこね、滑らかになったらラップに包んで30分ほど休ませる。
- 伸ばす:麺棒で5mm厚程度に伸ばす。製麺機がある場合は、徐々に薄く伸ばしていく。
- 切る:打ち粉をして、細く切る。手作りの場合は1mm幅を目指すが、難しい場合は1.5-2mm程度でも良い。
- まとめる:切った麺を軽く振って打ち粉を落とし、一人前ずつにまとめておく。
<チャーシューの作り方>
- 豚バラブロック肉(400g)を用意し、塩と黒胡椒で軽く下味をつける。
- フライパンで表面をこんがりと焼き色がつくまで焼く。
- 鍋に水(600ml)、醤油(100ml)、みりん(50ml)、砂糖(大さじ2)、生姜(薄切り3枚)、長ねぎの青い部分(1本分)を入れ、2の肉を加えて弱火で1時間半ほど煮る。
- 一晩冷蔵庫で冷やし、食べやすい薄さに切る。
<ラーメンの組み立て方>
- 大きめの鍋にたっぷりの湯を沸かし、麺を茹でる。手作り麺は1-2分、市販の麺は表示通りに茹でる。
- 丼にスープを注ぎ、湯切りした麺を入れる。
- チャーシュー、メンマ、麸、蒲鉾をきれいに盛り付け、小ねぎをちらし、海苔を立てる。
- 熱いうちに召し上がれ!
【ポイント】
- スープは透明感が命。煮込みすぎず、アクはしっかりと取り除く。
- 麺は薄力粉を混ぜることで、もちもちとした食感になる。
- チャーシューは前日に作っておくと味がなじみ、より美味しくなる。
- トッピングは控えめに。スープの味わいを邪魔しないように。
- 麸はスープに入れる直前に加えると、ふわっとした食感が楽しめる。
このレシピで作る十文字ラーメンは、家庭で作れる範囲で本場の味に近づけたものです。市販の麺や出汁を使う場合はレシピを適宜調整してください。何より大切なのは、澄んだスープと細麺のハーモニーを楽しむことです。
アレンジアイデア
基本的には本場の味をそのまま楽しむのがおすすめですが、アレンジを楽しむなら以下のような方法も人気です:
- 冷やし十文字ラーメン:暑い季節には、スープと麺を冷やして提供する冷やしラーメンにするのもおすすめ。さっぱりした味わいがより引き立ちます。
- 卵アレンジ:溶き卵を少量加えたり、半熟卵をトッピングすることで、スープにコクが出て、満足感がアップします。
- 野菜プラス:もやしや水菜など、シャキシャキした食感の野菜を追加すると、食物繊維も摂れてヘルシーな一品に。
- 生姜風味:すりおろした生姜を少量加えると、体が温まり、風味も変化して新しい味わいが楽しめます。

十文字ラーメンにまつわる豆知識
知られざる十文字ラーメンの特徴
十文字ラーメンの麺に使われる「かんすい無し」という特徴は、実は中華麺としては非常に珍しい製法です。一般的な中華麺はかんすい(アルカリ剤)を使用することで黄色い色と独特の食感が生まれますが、十文字ラーメンはこれを使わず、片栗粉を代用することで独特の白い麺と食感を作り出しています。これは戦後の物資不足時代の工夫が今に残ったものとも言われています。
人口比率から見た驚きの数字
人口約1万5000人の町に約50軒ものラーメン店があるという十文字町は、人口当たりのラーメン店舗数が日本でもトップクラスと言われています。この「ラーメン激戦区」とも呼べる状況は、地元の人々のラーメン愛の深さを表すとともに、各店が切磋琢磨することで品質が保たれてきた証でもあります。
他の秋田ラーメンとの比較
秋田県内には、比内地鶏を使った濃厚なスープのラーメンなど、様々なタイプのラーメンがありますが、十文字ラーメンはその透明感あるスープと細麺で一線を画しています。県内の他のラーメンが濃厚さや鶏の旨味を前面に出す中、十文字ラーメンは魚介の繊細な旨味とあっさり感を大切にしている点が大きな違いです。
秋田十文字ラーメンについてまとめ

十文字ラーメンの魅力再確認
秋田県十文字町が誇る「十文字ラーメン」は、透明感のある和風出汁の醤油スープと、かんすい不使用の細縮れ麺という独自の特徴を持つ郷土料理です。シンプルながらも奥深い味わいと、地元に根付いた食文化の歴史は、日本のラーメン文化の多様性を感じさせてくれます。
十文字ラーメンを知る旅へ
十文字ラーメンをより深く知るためには、やはり本場を訪れることが一番です。マルタマ、三角そばや、丸竹食堂など、歴史ある名店を巡る「ラーメン巡礼の旅」は、ラーメン好きにとって格別の体験となるでしょう。また、「道の駅十文字」では十文字ラーメンと横手焼きそばの両方を一度に楽しむこともできます。秋田県南部を訪れる際は、ぜひ十文字ラーメンの本場の味を体験してみてください。