豊かな自然と独自の文化が息づく秋田県は、きりたんぽやしょっつる鍋といった郷土料理で知られています 1。しかし、その食文化の奥深さは、地元の人々に愛され続けるご当地ラーメンにも顕著に表れています。日本全国に数多のラーメンが存在する中で、秋田県にはその土地ならではの個性豊かなラーメンが根付いているのです。本稿では、秋田県各地で育まれた多様なご当地ラーメンに焦点を当て、その魅力に迫ります。
この記事のもくじ
秋田ラーメンの代表格:十文字ラーメン

秋田県のご当地ラーメンとして最も広く知られているのが、横手市十文字町を発祥とする十文字ラーメンです 。その特徴は、透き通ったあっさりとした醤油味のスープにあります 。このスープは、煮干しや焼き干しといった魚介系の出汁をベースに、鰹節や昆布の旨味も加えることで、奥深い味わいを醸し出しています 。あっさりとした口当たりは、重労働が多かった時代に、おやつ代わりに食されることも多かったという歴史を物語っています 。
麺は、かんすいをほとんど使用しない細めの縮れ麺で、独特の食感を持っています 。茹でる前に手揉みを行うことで、さらに食感に変化を加えている店もあるようです 。具材は、チャーシュー、メンマ、ネギといった定番の他に、麩やかまぼこ、またはなるとが添えられるのが特徴的です 。シンプルな構成ながらも、それぞれの素材の味が引き立ち、バランスの取れた一杯として親しまれています。複数の情報源でスープ、麺、具材の特徴が共通して語られていることから、十文字ラーメンは地域を代表する確立されたご当地ラーメンと言えるでしょう。
十文字ラーメンは、昭和初期に十文字で屋台を引いていた中国人のラーメンが評判になったことが始まりと言われています 。人口1万5千人ほどの町に50軒ものラーメン店が存在するという事実 は、この地域におけるラーメン文化の根付き具合を示しています。中でも、「マルタマ」、「丸竹食堂」、「三角そばや」は十文字ラーメンの三大老舗として知られています 。創業はマルタマが最も古く、1934年頃とされています 。70年以上の歴史を持つ三角そばやは、店名にそばとありますが、れっきとしたラーメン専門店であり、地元で長く愛されています 。特筆すべきは、三角そばやで修行した方が秋田市内に店を構えていることからも、その味が広く受け入れられていることが伺えます。
多彩な顔を持つ秋田の個性派ラーメンたち
秋田県には、十文字ラーメン以外にも、地域ごとの特色を活かした様々なご当地ラーメンが存在します。
湯沢ラーメン

湯沢市を中心に親しまれている湯沢ラーメンは、熱々の動物系スープの上に、湯気も立たないほどの厚いラードの油膜が張られているのが最大の特徴です 。この油膜によってスープの熱が逃げにくく、最後まで温かい状態で味わえる工夫が凝らされています。具材には、隣町の十文字ラーメンと同様に麩が入っているのも特徴の一つです 。
このラーメンを提供する長寿軒は、地元で長く愛される名店として知られています 。あっさりとした十文字ラーメンとは対照的に、熱く油の層で覆われた湯沢ラーメンの存在は、秋田県におけるラーメンの多様性を示唆しており、地域の気候や食文化の違いがラーメンのスタイルにも影響を与えていると考えられます。
本荘しねにぐラーメン

由利本荘市にある清吉そばやで提供されている本荘しねにぐラーメンは、そのユニークな名前が特徴的です 。これは、「しねぇ(硬い)にぐ(お肉)」が具材として使われていることに由来します 。スープは鶏ガラベースであっさりとしており 、噛み応えのある硬い肉との組み合わせが独特の食感と味わいを生み出しています 。
シンプルな中にも力強さがあるこのラーメンは、地元の人々に愛されるご当地の味として親しまれています。他の地域ではあまり見られない「硬い肉」をあえて使用する点は、由利本荘市ならではの食文化を反映していると言えるでしょう。
秋田ちゃんぽん

秋田県にも、長崎発祥のちゃんぽんを独自にアレンジした秋田ちゃんぽんが存在します 。チャイナタウンという店が特に有名で 、味噌味のちゃんぽんが定番メニューとして人気を集めています。
その他にも、塩味や醤油味のちゃんぽんも提供されており、とろみのあるスープが麺によく絡み、熱々で食べられるのが特徴です 。ただし、とろみのないタイプの秋田ちゃんぽんも存在するため、好みに合わせて選ぶことができます。中華料理であるちゃんぽんが、秋田の地で独自の進化を遂げていることは、地域の食文化が柔軟に外部の食を取り入れ、変化させてきた証と言えるでしょう。
北秋田馬肉ラーメン

北秋田地域では、古くから馬肉を食べる文化があり、その馬肉を具材に使用した北秋田馬肉ラーメンが親しまれています 。馬肉の風味がスープに溶け出し、独特のコクと旨味が楽しめるのが特徴です 。このラーメンは、能代市二ツ井町にある曙食堂で味わうことができます 。他の地域ではあまり一般的ではない馬肉をラーメンの具材として使用することは、北秋田地域特有の食文化を色濃く反映していると言えます。
江戸系ラーメン

秋田市には、江戸系ラーメンと呼ばれるご当地ラーメンが存在します 。これは、一般的な醤油ラーメンの上に、ニラなどが混ざった辛味の薬味が乗っているのが特徴で 、食べる際に卓上の酢を加えて辛さを調整するという独特のスタイルで食されています。
小江戸や、2024年に場所を変えて再開した大江戸が有名で 、大江戸は江戸系ラーメン発祥の店とされています 。また、仲江戸という店も同様の味わいを提供しているようです 。シンプルな醤油ラーメンに辛味と酢で変化を加えるという食べ方は、秋田市ならではのラーメンの楽しみ方と言えるでしょう。
比内地鶏中華そば

秋田県が誇るブランド鶏である比内地鶏の旨味を凝縮したスープが特徴の比内地鶏中華そばも、秋田を代表するラーメンの一つです 。比内地鶏から丁寧に取られた出汁は、濃厚で深い味わいを持ち、そのスープによく合うように、細くてストレートな麺が用いられることが多いようです 。
チャーシューやメンマ、味付け卵といった定番の具材が添えられ、一杯で満足感の高いラーメンとして人気を集めています。らーめん秋田 ひない軒などが有名で、お土産用のギフトボックスやセットも販売されています。地元産の高級食材である比内地鶏を贅沢に使用したラーメンは、秋田の食文化を象徴する一杯と言えるでしょう。
その他のご当地ラーメン
上記以外にも、秋田県内には様々なご当地ラーメンが存在します。かつて鉱山の町として栄えた小坂町には、カツ丼とラーメンを一緒に食べたいという客の要望から生まれたこさかかつらーめん があります。
三郷町には、昭和40年頃に地元で愛されていた「たぬき中華」を復刻させた三郷たぬ中 というご当地グルメもあります。
男鹿市には、比内地鶏スープと秋田味噌スープの2種類の味が楽しめるなまはげ秋田 赤鬼ラーメン があり、稲庭うどんで有名な稲庭町(現湯沢市)には、その製麺技術を活かした稲庭中華そば があります。
鹿角市にある桜木屋のニラそば は、ニラと豚肉の旨味が溶け込んだピリ辛醤油味が人気です。また、自家製麺と豚骨白湯スープが自慢の店では、パイコー麺 が提供されています。煮干しをふんだんに使った煮干しそばを提供する店も多く、秋田味噌を使った味噌ラーメンも各地で見られます。
このように、秋田県は地域ごとに特色豊かなラーメンが存在し、その多様性は訪れる人々を魅了してやみません。
ラーメン名 | スープベース | 主な麺 | 主な具材 | 主な提供地域 |
十文字ラーメン (Jumonji Ramen) | あっさり醤油(魚介系) | 細縮れ麺(かんすい少なめ) | チャーシュー、メンマ、ネギ、麩、かまぼこ | 横手市(十文字地域)、マルタマ、丸竹食堂、三角そばや |
湯沢ラーメン (Yuzawa Ramen) | 濃厚動物系(熱々) | (詳細不明) | チャーシュー、ネギ、麩、厚いラード | 湯沢市、長寿軒 |
本荘しねにぐラーメン (Honjō Shine Nigu Ramen) | あっさり鶏ガラ | (詳細不明) | 硬い肉(しねにぐ) | 由利本荘市、清吉そばや |
秋田ちゃんぽん (Akita Chanpon) | 各種(とろみあり、なし) | (詳細不明) | 魚介類、野菜、豚肉 | 秋田市、チャイナタウン |
北秋田馬肉ラーメン (Kita-Akita Horse Meat Ramen) | 醤油(馬肉の風味) | (詳細不明) | 馬肉 | 能代市(二ツ井)、曙食堂 |
江戸系ラーメン (Edo-kei Ramen) | 醤油 | 細縮れ麺(多加水気味) | チャーシュー、メンマ、ネギ、辛味薬味 | 秋田市、小江戸、大江戸 |
比内地鶏中華そば (Hinai Jidori Chūka Soba) | 濃厚鶏(比内地鶏) | 細ストレート麺 | チャーシュー、メンマ、味付け卵 | 県内各地、らーめん秋田 ひない軒 |
まとめ
秋田県には、十文字ラーメンを筆頭に、その土地の風土や歴史、食材を活かした多種多様なご当地ラーメンが存在します。あっさりとした魚介系スープから、濃厚な鶏白湯、ユニークな馬肉や硬い肉を使ったものまで、そのバリエーションの豊かさは、訪れる人々を飽きさせません。
これらのラーメンは、地元の人々の日常に深く根ざし、それぞれの地域で独自の進化を遂げてきました。秋田を訪れた際には、ぜひ各地のラーメンを巡り、その奥深い魅力を堪能してみてはいかがでしょうか。