
岩手県の三陸沿岸を車で走ると、あちらこちらで「磯ラーメン」の看板やのぼりを目にすることができます。三陸磯ラーメンは、世界三大漁場の一つである三陸沖の豊かな海の恵みをふんだんに使った、岩手県が誇るご当地ラーメンです。
透き通った塩ベースのスープに、わかめ、めかぶ、ふのりなどの三陸産海藻をたっぷりと乗せた一杯は、まさに「海のラーメン」。磯の香りが口いっぱいに広がり、都会では味わえない本物の海の味を楽しむことができます。
近年、健康志向の高まりとともに、ミネラル豊富な海藻を使ったラーメンは、全国のラーメンファンからも注目を集めています。また、2011年の東日本大震災からの復興のシンボルとしても、多くの人々に愛されている一杯なのです。
この記事のもくじ
世界三大漁場の一つ「三陸沖」の豊かさ
三陸沖は、ノルウェー沖、カナダ・ニューファンドランド沖(グランドバンク)と並ぶ世界三大漁場の一つです。


世界三大漁場の特徴
1. 三陸沖(日本)
- 親潮(寒流)と黒潮(暖流)がぶつかる潮目
- プランクトンが豊富で、サンマ、イワシ、サバなどが集まる
- 世界有数の海藻の宝庫でもある
2. ノルウェー沖(北海)
- 北大西洋海流と北極海の冷水が混ざり合う海域
- タラ、ニシン、サバが主要魚種
- バイキング時代から続く漁業の歴史
3. カナダ・ニューファンドランド沖(グランドバンク)
- ラブラドル海流とメキシコ湾流が出会う大陸棚
- かつては「タラの山」と呼ばれるほどタラが豊富
- 乱獲により資源が枯渇し、現在は漁業規制中
三陸沖の特別な点は、魚類だけでなく海藻類の多様性にあります。この豊かな海藻文化が、三陸磯ラーメンという独自の食文化を生み出したのです。
漁師町から生まれた海の恵み

誕生の背景:豊かな海が育んだ食文化
三陸磯ラーメンの歴史は、岩手県の三陸沿岸地域の漁業文化と深く結びついています。この地域は古くから漁業が盛んで、特にワカメ、コンブ、ノリなどの海藻類の養殖が発達していました。
1960年代頃から、地元の食堂で漁師たちのまかない料理として、余った海藻を使ったラーメンが作られるようになりました。当初は「海藻ラーメン」「浜のラーメン」などと呼ばれていましたが、次第に「磯ラーメン」という名前で統一されていきました。
発展と変遷:観光資源としての成長
1980年代に入ると、三陸海岸の観光開発が進み、磯ラーメンは観光客向けのメニューとしても注目されるようになりました。各店舗が独自の工夫を凝らし、ホタテ、ウニ、カニなどの高級食材を加えた「豪華版磯ラーメン」も登場しました。

震災からの復興:新たな価値の創造
2011年の東日本大震災では、三陸沿岸地域は甚大な被害を受けました。しかし、地元の人々は磯ラーメンを復興のシンボルの一つとして位置づけ、「いわて北三陸磯ラーメン」としてブランド化を進めました。
現在では、洋野町の老舗、磯料理「喜利屋」の監修のもと、麺は岩手県産の小麦3種類を独自のブレンドで配合し、スープには岩手県野田村の特産「のだ塩」をベースに魚介の旨味を凝縮した出汁を使用した商品化も進んでいます。
五感で楽しむ海の恵み

スープの秘密:透明感あふれる海の出汁
スープは、透き通った塩ベースが基本です。潮出汁風の透き通ったスープは具材から出た出汁も加わりすっきりしながらも味わい深く飲み飽きることがありません。
スープの特徴:
- ベースは昆布や煮干しでとった和風出汁
- 岩手県野田村産「のだ塩」などの天然塩を使用
- ホタテやアサリなどの貝類から出る旨味
- あっさりしているが、深みのある味わい
麺の特徴:スープとの相性を追求
スープとの相性がよい中細ちぢれ麺が一般的です。岩手県産小麦を使用した麺は、適度なコシがあり、海藻やスープとよく絡みます。
麺の特徴:
- 中細のちぢれ麺が主流
- 岩手県産小麦「ナンブコムギ」「ゆきちから」などを使用
- 適度な歯ごたえとツルツルとした食感
- スープをよく吸い、海藻と一緒に食べやすい
具材の魅力:三陸の海藻三兄弟
三陸磯ラーメンの最大の特徴は、何といってもたっぷりの海藻類です。三陸産の海藻「わかめ・めかぶ・ふのり」をセットにした「海藻三兄弟」が定番です。
主な具材:
- わかめ:肉厚で香り高い三陸産わかめ
- めかぶ:ネバネバとした食感が特徴
- ふのり:磯の香りが強く、プチプチとした食感
- その他:ホタテ、エビ、カニなど(店舗により異なる)
提供スタイル:磯の香りを最大限に活かす工夫
多くの店舗では、海藻を別皿で提供し、食べる直前にラーメンに乗せるスタイルを採用しています。これにより、海藻の食感と磯の香りを最大限に楽しむことができます。
地元流の楽しみ方:三陸の人々が愛する食べ方
基本の食べ方:海藻の香りを楽しむ
- まずはスープを一口:透明なスープの旨味を確認
- 海藻を少しずつ加える:磯の香りの変化を楽しむ
- 麺と海藻を一緒に:食感のハーモニーを味わう
- 最後はスープを飲み干す:海の恵みを余すことなく
地元民のこだわりオーダー
- 海藻増し:通常の1.5倍~2倍の海藻をトッピング
- 貝出汁強め:ホタテやアサリの出汁を効かせてもらう
- 季節限定トッピング:ウニ(夏)、イクラ(秋)など
時間帯による楽しみ方
- 朝ラー:漁師の朝食として、さっぱりとした磯ラーメン
- 昼食:観光の合間に、豪華版磯ラーメン
- 夜食:地酒と一緒に、〆の一杯として
バリエーションの楽しみ方
各店舗では独自のアレンジを加えた磯ラーメンを提供しています。
- 海賊ラーメン:豪華な海鮮をトッピング
- ホヤラーメン:珍味ホヤを使った個性的な一杯
- ウニ入り磯ラーメン:夏季限定の贅沢版
名店紹介:必ず訪れたい3軒
1. 磯料理 喜利屋(洋野町)

洋野町種市にある「喜利屋」。種市は潜水夫の、南部ダイバーのまちとして知られ、新鮮な海の幸が自慢の老舗です。
店舗情報:
- 住所:岩手県九戸郡洋野町種市17-47-1
- 電話番号:0194-65-2971
- 営業時間:11:00~21:00
- 定休日:木曜日
特徴:
- 磯ラーメン(700円)はあっさりとした塩味ベース
- 海賊ラーメンは豪華な海鮮がたっぷり
- 天然ホヤラーメン(1,200円)は珍味好きにおすすめ
- ホヤラーメンにとれたてのホヤを使用しているため、海がシケの日は提供できないこともある
口コミ情報:
- 「透き通ったスープが絶品!海の旨味が凝縮されている」
- 「海藻の量がたっぷりで、磯の香りを存分に楽しめる」
- 「地元の漁師さんも通う店だけあって、素材の鮮度が抜群」
2. 北山崎レストハウス(田野畑村)

日本一の海岸美と称される北山崎の展望台近くにある人気店。観光と合わせて訪れたい一軒です。
店舗情報:
- 住所:岩手県下閉伊郡田野畑村北山129-8
- 電話番号:0194-33-2021
- 営業時間:4~10月 8:30~16:30、11月・3月 8:30~16:00
- 定休日:冬季休業あり
特徴:
- 絶景を眺めながら食事ができる
- 海藻をたっぷり載せた塩ベースのあっさりしたラーメンは浜の味
- ウニ丼とのセットメニューも人気
- 観光シーズンは混雑するため、時間に余裕を持って訪問を
口コミ情報:
- 「北山崎の絶景とセットで楽しめる贅沢な時間」
- 「観光地価格かと思いきや、味も本格的で満足」
- 「海藻の種類が豊富で、食感の違いを楽しめる」
3.浜茶や食堂(田野畑村)

東日本大震災を乗り越えて営業を続ける、地元に愛される名店。海藻たっぷりの本格的な磯ラーメンが味わえます。
店舗情報:
- 住所:岩手県下閉伊郡田野畑村菅窪205-4
- 電話番号:0194-34-2295
- 営業時間:11:00~21:00
- 定休日:不定休
特徴:
- 震災前は机浜番屋群で営業、現在は仮設店舗で復活
- 磯物ラーメンは海藻類にフォーカスした伝統的なタイプ
- ワカメ、ふのり、まつもの3種類の海藻をたっぷり使用
- 節や昆布の魚介系出汁が効いた純和風テイストのスープ
- ウニ丼(1,800円)との組み合わせも人気
口コミ情報:
- 「海藻の磯の風味がスープに浸透し、若干のトロミが麺との相性抜群」
- 「あっさりしているが、しっかりとした魚介の旨味を感じる」
- 「大きなどんぶりに海の幸がいっぱいで、ボリューム満点」
- 「仮設店舗だが、味は本物。復興への思いを感じながらいただける一杯」

自宅で楽しむ本格レシピ公開
基本の三陸磯ラーメン(2人前)
材料:
- 中華麺(中細ちぢれ麺):2玉
- 乾燥わかめ:10g
- めかぶ:2パック
- ふのり(乾燥):5g
- 昆布:10cm角1枚
- 煮干し:20g
- 水:800ml
- 天然塩:小さじ2
- 薄口醤油:小さじ1
- みりん:小さじ1
- ネギ:適量
作り方:
- 出汁を取る
- 水に昆布を入れ、30分以上浸す
- 弱火にかけ、沸騰直前で昆布を取り出す
- 煮干しを加え、10分煮出してから濾す
- スープを仕上げる
- 出汁に塩、薄口醤油、みりんを加えて味を調える
- 一度沸騰させてから火を止める
- 具材の準備
- わかめとふのりは水で戻す
- めかぶは流水で洗い、食べやすい大きさに切る
- ネギは小口切りにする
- 盛り付け
- 茹でた麺を丼に入れる
- 熱々のスープを注ぐ
- 海藻類をたっぷり乗せる
- ネギを散らして完成
プロの味に近づけるコツ
- 出汁の取り方
- 昆布は羅臼昆布か利尻昆布を使用
- 煮干しは頭と腹わたを取り除く
- 水温60℃で30分キープすると旨味が最大に
- 海藻の扱い方
- わかめは戻しすぎない(食感が大切)
- めかぶは粘りを活かすため、最後に乗せる
- ふのりは熱湯で軽く戻す程度に
- 仕上げのポイント
- ホタテの貝柱を加えると本格的な味に
- 仕上げにごま油を数滴たらすと香りが立つ
- 器を温めておくことで、最後まで熱々を楽しめる
必要な材料と代用品
本格派の材料:
- 三陸産乾燥わかめ(通販で購入可能)
- 天然塩(「のだ塩」など)
- 生めかぶ(冷凍でも可)
代用可能な材料:
- わかめ→市販の塩蔵わかめ
- ふのり→青のり、あおさ
- 煮干し→かつお節、顆粒だし(量を調整)
アレンジアイデア
- 豪華版・海鮮磯ラーメン
- ボイルホタテ、エビ、カニカマを追加
- いくらをトッピング(秋~冬)
- ヘルシー版・野菜たっぷり磯ラーメン
- もやし、白菜、人参を加える
- 麺を半分にして、野菜でボリュームアップ
- つけ麺スタイル磯ラーメン
- 濃いめのスープを別器に
- 海藻は麺の上に乗せて、つけながら食べる

豆知識:知って得する情報
意外と知られていない事実
- 海藻の栄養価
- わかめはカルシウムが牛乳の約7倍
- めかぶにはフコイダンという抗がん作用のある成分
- ふのりは食物繊維が豊富で、整腸作用がある
- 地域による違い
- 北部(洋野町周辺):ホヤやウニを使った個性的な味
- 中部(宮古市周辺):王道のシンプルな磯ラーメン
- 南部(大船渡市周辺):サンマ出汁を使うことも
- 季節による楽しみ方
- 春:新わかめの季節、香りが最高
- 夏:ウニの旬、贅沢トッピング
- 秋:サンマやイクラでアレンジ
- 冬:牡蠣を加えた濃厚版
面白いエピソード
- 「海賊ラーメン」の由来
- 喜利屋の海賊ラーメンは、漁師が「海賊のように豪快に食べる」ことから命名
- テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」でも紹介され話題に
- 震災復興のシンボル
- 2011年の震災後、全国からの支援で磯ラーメンの炊き出しを実施
- 「海の恵みは必ず戻ってくる」という希望の象徴に
- 観光大使としての役割
- 岩手県のアンテナショップでも期間限定で提供
- 海外からの観光客にも「UMAMI」として人気
おわりに:海の恵みを味わおう
三陸磯ラーメンは、単なるご当地グルメではありません。三陸の豊かな海、漁師たちの知恵、そして震災からの復興への思いが詰まった、特別な一杯です。
透き通ったスープに浮かぶ海藻たちは、まるで海の中を覗いているかのよう。一口すすれば、磯の香りが鼻を抜け、三陸の海辺にいるような気分になれます。
ぜひ一度、本場・三陸の地で、海を眺めながら磯ラーメンを味わってみてください。そして、自宅でも再現レシピに挑戦して、三陸の海の恵みを楽しんでみてはいかがでしょうか。