盛岡の隠れた名物「じゃじゃ麺」をご存知ですか? わんこそば、盛岡冷麺と並んで「盛岡三大麺」と称される、知る人ぞ知る絶品グルメです。一見シンプルながら、自分好みにカスタマイズできる楽しさと、最後のシメ「ちーたんたん」まで含めた二段階の味わいが魅力。今回は、この奥深いじゃじゃ麺の世界を徹底解説いたします。
この記事のもくじ
戦後復興から生まれた奇跡の麺料理

満州からの引き揚げが生んだ郷土の味
じゃじゃ麺の誕生は、戦後復興期の盛岡に遡ります。昭和20年代、現在の中国東北部にあたる旧満州に移住していた高階貫勝(たかしな かんしょう)氏が、終戦後に盛岡で屋台を始めたのが始まりでした。

高階氏は満州時代に味わった炸醤麺(じゃーじゃーめん)を忘れることができず、盛岡で手に入る材料を使って現地の味を再現しようと試行錯誤を重ねました。しかし、単なる模倣ではなく、盛岡人の舌に合うよう独自のアレンジを加え続けた結果、全く新しい麺料理「じゃじゃ麺」が完成したのです。
時代による進化と現在への継承
当初は屋台で提供されていたじゃじゃ麺は、その独特の味わいが評判となり、1953年に高階氏が「白龍(パイロン)」として店舗を構えることになりました。この白龍本店が現在の「じゃじゃ麺発祥の地」とされています。
その後、長年にわたって改良が続けられ、現在では盛岡を代表する麺料理の一つとして確固たる地位を築いています。地元には「じゃじゃ麺同好会」なる組織まで存在するほど愛されており、まさに「盛岡っ子のソウルフード」といえる存在です。
地域文化との深いつながり
じゃじゃ麺は単なる料理を超えて、盛岡の文化そのものとなっています。**総務省統計局の家計調査によると、盛岡市は中華めんの購入量が全国の県庁所在地で非常に多い「麺好きの街」**として知られており、その中でもじゃじゃ麺は特別な位置を占めています。
2023年にはニューヨークタイムズ紙の「2023年に行くべき52カ所」でロンドンに次いで2番目に盛岡市が紹介されるなど、世界的な注目も集めています。

じゃじゃ麺の奥深い特徴を完全解説

麺へのこだわり:うどんでもラーメンでもない独特の食感
じゃじゃ麺の麺は中華麺ではなく、きしめんのような平打ち麺を使用するのが最大の特徴です。市内の製麺所と共同開発したオリジナル麺は、もちもちとした食感が肉味噌との絡みを良くし、独特の満足感を生み出します。
この平打ち麺は、餃子の皮をベースにしたような製法で作られる店もあり、通常のうどんよりも弾力があり、噛みごたえのある食感が楽しめます。茹でたてのアツアツ状態で提供されるため、最後まで温かく美味しくいただけます。
秘伝の肉味噌:各店の個性が光る味の決め手
じゃじゃ麺の心臓部ともいえる肉味噌は、挽き肉、シイタケ、ニンニク、ゴマなど10種類以上の材料を赤味噌と炒め合わせ、じっくりと寝かせて作られます。店によって使用する材料や配合比率が異なるため、それぞれが独自の味わいを持っているのが特徴です。
白龍では毎朝約1時間をかけて仕込みを行い、ちーたんでは仙台味噌をベースに17種類の材料を使用するなど、各店のこだわりが味の違いを生み出しています。
トッピングの妙:シンプルながら計算された組み合わせ
基本のトッピングはキュウリの細切り、長ネギのみじん切り、そして紅ショウガというシンプルな構成ですが、これらが肉味噌の濃厚さを中和し、食感にアクセントを加える重要な役割を果たしています。
キュウリのシャキシャキ感が重い肉味噌に爽やかさを与え、ネギの辛味が全体の味を引き締めます。この絶妙なバランスこそが、じゃじゃ麺が飽きのこない理由なのです。
通が知る盛岡流じゃじゃ麺の食べ方

基本の食べ方:混ぜて、調味して、自分流にアレンジ
**じゃじゃ麺は提供された時点では「未完成」**なのが特徴です。まず、肉味噌、キュウリ、ショウガを麺と色が変わるまでよく混ぜ合わせます。この時点で一口味見をして、店の基本的な味を確認しましょう。
次に、卓上の調味料を使って自分好みの味に調整します。初心者には酢、ラー油、おろしニンニクがおすすめ。酢はさっぱり感を、ラー油は辛味を、ニンニクは風味を増してくれます。
上級者のカスタマイズテクニック
常連客になると、それぞれが独自の「黄金比」を持つようになります。ある店では粉海苔や青森県田子産のニンニク、南蛮醤油など他店では見かけない調味料も用意されており、自分だけの味を追求できます。
中には味噌を追加で注文する人や、途中で酢を加えて味変を楽しむ人もいます。**「じゃじゃ麺は3回以上食べて初めて、その魅力を知ることができる」**と言われるのは、このカスタマイズの奥深さゆえなのです。
時間帯や季節による楽しみ方の違い
昼食時には比較的あっさりと食べる人が多い一方、夜の飲み締めとして食べる際はニンニクやラー油を効かせた濃い味にする人が多いのも特徴です。
また、夏場は酢を多めに加えてさっぱりと、冬場は肉味噌を多めにして温まる食べ方をするなど、季節に応じた楽しみ方もあります。
絶対に訪れたい名店3選
【発祥の店】白龍(パイロン)本店

■住所: 岩手県盛岡市内丸5-15
■電話番号: 019-624-2247
■営業時間: 【平日】9:00~21:00(L.O.)【日・祝】11:30~21:00(L.O.)
■定休日: なし
じゃじゃ麺発祥の聖地として、常に行列が絶えない名店中の名店。桜山神社の参道沿いという立地も含めて、昭和の雰囲気を色濃く残しています。
創業から60年以上変わらぬ製法で作られる秘伝の肉味噌は、ひき肉、ゴマ、シイタケなど十数種類の材料を混ぜ込んで炒めて寝かせた深い味わいが特徴。一度食べると忘れられない、記憶にすり込まれるほど個性的な味です。
実際に食べた人のレビュー:「最初は見た目で『これがじゃじゃ麺?』と思ったが、混ぜて食べてみると病みつきになる味。酢とラー油を加えると全く違う料理になるのが面白い。常連さんらしき人は手慣れた様子で調味料を加えていて、奥の深さを感じた」
【こだわりの名店】盛岡じゃじゃ麺 ちーたん

■住所: 岩手県盛岡市上太田痩野71-1
■電話番号: 019-656-2338
■営業時間: 【平日】11:00~14:30【土日祝】11:00~19:00
■定休日: 毎週火曜日
盛岡郊外の広い駐車場を持つ人気店。地元製麺業者と共同開発したオリジナル麺と、17種類の材料で作った肉味噌が自慢です。特筆すべきは、通常は豚挽き肉を使う店が多い中、鶏挽き肉を使用することで比較的あっさりとした味わいを実現していること。
また、チータンタンをじゃじゃ麺と同時提供できるのも特徴で、小食の方や両方楽しみたい方には嬉しいサービスです。卵には紫波町浅沼養鶏場の「純国産鶏もみじ」を使用するこだわりも。
実際に食べた人のレビュー:「茹でたてあつあつ麺に味噌を入念に絡める。見た目以上にマイルドに仕上がった味噌との相性は良好。途中でラー油を加えて味変、最後のチータンタンは卵がふんわりして絶品だった。駐車場が広く車での利用に便利」
【バリエーション豊富】不来方(こずかた)じゃじゃめん

■住所: 岩手県盛岡市大通3-1-23 クリエイトビルB1F
■電話番号: 019-651-7575
■営業時間: 11:00~22:00(冬季:11:00~21:00)
■定休日: 無休
盛岡で3番目に古いじゃじゃ麺専門店で、30種類以上の野菜や果物を使った特製味噌が特徴。他店にはない「普通・中辛・激辛」の3種類の味噌から選べるのがユニークで、チャーシューじゃじゃ麺などオリジナルメニューも豊富です。
岩手県産小麦を使用した硬めの平麺と、自分で味噌の量を調節できるシステムも魅力的。ビルの地下という立地ながら、観光客で混雑することが少なく、落ち着いて食事ができます。
実際に食べた人のレビュー:「味噌の辛さが選べるのが面白い。中辛でも想像以上にパンチがあり、食べ進めるうちにじんわり熱くなる。チャーシューも柔らかく、普通のじゃじゃ麺とは一味違う贅沢感がある」

自宅で本格じゃじゃ麺を作る方法
基本レシピ:プロの味を家庭で再現
【肉味噌の材料(4人分)】
- 豚ひき肉:200g
- 干しシイタケ:3枚(みじん切り、戻し汁50cc残す)
- 玉ねぎ:1/2個(みじん切り)
- ニンニク:2片(みじん切り)
- ショウガ:1片(みじん切り)
- 赤味噌:大さじ3
- 練りゴマ(白):大さじ1
- 砂糖:大さじ1
- みりん:大さじ1
- 酒:大さじ2
- ごま油:大さじ1
【作り方】
- フライパンにごま油を熱し、ニンニクとショウガを炒めて香りを出す
- 玉ねぎ、シイタケを加えて炒め、豚ひき肉を加えてよく炒める
- 一度火を止めて味噌、練りゴマ、調味料を加える
- シイタケの戻し汁を少しずつ加えて好みの固さに調整
- 弱火で5分ほど煮込んで完成
本格的な味を再現するコツ
味噌は必ず火を止めてから加えることで焦げを防ぎ、まろやかな味に仕上がります。また、シイタケの戻し汁を使うことで旨味が格段にアップします。
麺は冷凍うどんの平麺タイプを使用すると、本場に近い食感を楽しめます。茹で上がったらしっかりと湯切りをして、熱々の状態で肉味噌をのせましょう。
家庭ならではのアレンジアイデア
- キムチじゃじゃ麺: 肉味噌にキムチを混ぜ込んで韓国風に
- カレージャジャ麺: カレー粉を加えてスパイシーに
- チーズじゃじゃ麺: 仕上げにとろけるチーズをトッピング
- 野菜たっぷりじゃじゃ麺: もやし、ニラ、コーンなどをプラス
本格ちーたんたんの作り方
じゃじゃ麺を8割ほど食べたら、残った皿に生卵1個を割り入れてよく混ぜます。そこに麺の茹で汁(熱々)を注ぎ、残った肉味噌少量とネギを加えて完成。お好みで塩コショウ、ラー油、酢を加えて味を調整してください。

盛岡 じゃじゃ麺にまつわる興味深い豆知識
「ちーたんたん」の名前の由来
「ちーたんたん」は中国語の「鶏蛋湯(チータンタン)」が語源で、直訳すると「鶏卵スープ」という意味です。本場の炸醤麺にもジャージャー麺にもない、じゃじゃ麺独自の食べ方として発展しました。

この〆のスープは、満州時代の高階氏の記憶にあった中華料理の影響と、日本の「雑炊」の文化が融合して生まれたと考えられています。
ジャージャー麺との決定的な違い
多くの人が混同しがちですが、じゃじゃ麺とジャージャー麺は全く別の料理です。

【主な違い】
- 麺: じゃじゃ麺(平打ちうどん麺)vs ジャージャー麺(中華麺)
- 味噌: じゃじゃ麺(赤味噌ベース)vs ジャージャー麺(豆板醤ベース)
- 食べ方: じゃじゃ麺(調味料で味付け)vs ジャージャー麺(そのまま食べる)
- 仕上げ: じゃじゃ麺(ちーたんたん)vs ジャージャー麺(なし)
盛岡市民の愛され方
2016年のアンケートでは、月1回以上じゃじゃ麺を食べる人が6割を超えたという驚きのデータがあります。また、興味深いことに、「初めて食べたじゃじゃ麺はまずかった」と答えた人が3人に1人もいたというデータも。
これは、じゃじゃ麺が自分で味付けをして完成させる料理であるため、最初は食べ方がわからず美味しく感じられないが、慣れてくると病みつきになるということを示しています。
意外な栄養価
じゃじゃ麺は一見重そうに見えますが、野菜と肉がバランスよく摂取でき、意外にヘルシーな麺料理です。特に不来方じゃじゃめんでは30種類以上の野菜や果物を使用しており、栄養価の高さでも注目されています。
また、ちーたんたんで卵を摂取することで、タンパク質も補える完全栄養食に近い側面もあります。
まとめ:じゃじゃ麺の魅力を堪能しよう
岩手・盛岡のじゃじゃ麺は、単なる麺料理を超えた文化的な食べ物です。戦後復興期に生まれた庶民の知恵と工夫が詰まった料理であり、今なお進化を続けています。
自分好みの味にカスタマイズできる楽しさ、最後のちーたんたんまで含めた二段階の満足感、そして各店の個性が光る多様性こそが、じゃじゃ麺の最大の魅力といえるでしょう。
次のステップとして
- まずは本場・盛岡で本物を味わってみる – 白龍、ちーたん、不来方の3店舗制覇がおすすめ
- 自宅でレシピに挑戦 – 家族それぞれの好みの味を見つける楽しさを体験
- 通販で本格的な味を取り寄せ – 忙しい時でも手軽に本場の味を楽しめます
じゃじゃ麺の奥深い世界は、一度足を踏み入れると抜け出せない魅力に満ちています。ぜひこの機会に、盛岡が誇るソウルフードの真髄を体験してみてください。きっと、あなたも「じゃじゃ麺沼」にハマることでしょう。