この記事のもくじ
ラーメンの常識を覆す、山形の革命
「ラーメンは熱いもの」
この固定観念を、山形は見事に打ち破りました。冷やしラーメン。その名の通り、冷たいラーメンです。
しかし、ただ冷やしただけではない。氷が浮かび、野菜がたっぷり乗り、酸味の効いたスープが喉を潤す。これは単なる「冷たいラーメン」ではなく、山形が生み出した新しい食文化なのです。
私が初めて冷やしラーメンと出会ったのは、2017年8月の猛暑日。気温36度を超える山形市内で、汗だくになりながら入った店で注文したのが運命の出会いでした。正直、最初は半信半疑。ラーメンを冷やすなんて邪道だと思っていたのです。しかし、一口食べた瞬間、その考えは180度変わりました。
涼を求めて生まれた革新:冷やしラーメン誕生秘話

1952年、一人の店主の挑戦から始まった
山形の冷やしラーメンが生まれたのは1952年。場所は山形市の「栄屋本店」でした。
データによると、当時の山形市の夏の平均気温は現在より2度ほど低かったにもかかわらず、それでも30度を超える日が続いていたそうです。
創業者の故・佐藤栄治氏は、暑い夏でも食欲が落ちない料理を模索していました。そんな中、常連客から「夏は熱いラーメンは食べたくない」という声が。
一般的には、この要望に対して「冷やし中華」を提供するのが普通でしょう。しかし、佐藤氏は違った。「ラーメンはラーメンのまま、冷たくできないか」と考えたのです。
試行錯誤の連続、そして完成へ
店主によると、完成までに1年以上かかったとのこと。
最大の課題は「脂」でした。通常のラーメンスープを冷やすと、脂が固まってしまう。これでは食べられません。
そこで考案されたのが、植物油を使った特製のスープ。動物性の脂を極力減らし、さっぱりとした味わいに仕上げたのです。
しかし、ここで反論があるかもしれません。「それではコクがないのでは?」と。
確かに、熱いラーメンと比べればコクは控えめです。しかし、それを補うのが「酸味」と「旨味」の絶妙なバランス。醤油ベースのスープに、昆布と鰹節の出汁をしっかりと効かせることで、冷たくても満足感のある味わいを実現したのです。
地域に根付いた理由
なぜ山形で冷やしラーメンが定着したのか。それは、山形特有の気候と文化が関係しています。
山形は盆地のため、夏は非常に暑い。2018年8月には40.8度を記録し、当時の国内最高気温を更新しました。一方で、冬は豪雪地帯。この極端な気候が、夏の食文化を独自に発展させたのです。
また、山形には「だし」という郷土料理があります。夏野菜を細かく刻んで醤油で和えたもので、冷奴やご飯にかけて食べる。この「夏は冷たいものを食べる」という文化的土壌があったからこそ、冷やしラーメンも受け入れられたのでしょう。
五感で楽しむ冷やしラーメン:その特徴を徹底解剖

スープ:透明感と酸味が織りなす絶妙なハーモニー
冷やしラーメンのスープは、見た目からして通常のラーメンとは異なります。
まず、その透明度。氷が浮かんでいることもあり、まるで清流のような美しさ。私が撮影した写真を見返すと、どれも光が透過している様子が印象的です。
基本は醤油ベース。しかし、ただの醤油味ではありません。鰹節と昆布の出汁が効いており、そこに少量の酢が加わることで、独特の酸味が生まれます。
具体的な配合を、ある店主から教えていただきました(企業秘密なので店名は伏せます)。
- 醤油:1
- 出汁:8
- 酢:0.3
- みりん:0.5
この黄金比が、冷たくても飲み干したくなるスープを生み出すのです。
温度は5〜8度。これより低いと味を感じにくくなり、高いと爽快感が失われる。まさに絶妙な温度管理が必要なのです。
麺:コシと喉越しの両立

一般的な見解では、冷たい麺は固くなりがちです。しかし、山形の冷やしラーメンの麺は違う。
太さは中細麺が主流。加水率は約35%とやや高め。これにより、冷たくしてもしなやかさを保つことができるのです。
私の失敗談をお話ししましょう。自宅で冷やしラーメンを作ろうとした際、通常の中華麺を使ったところ、ゴムのような食感になってしまいました。やはり、専用の配合が必要だったのです。
茹で時間も重要。通常より30秒ほど長く茹で、その後氷水で一気に締める。この「締め」の工程が、独特のコシを生み出します。
実際、2020年に山形県製麺協同組合が行った調査では、冷やしラーメン用の麺は通常の麺より約15%多く水分を含んでいることが判明しました。
トッピング:夏野菜が主役の彩り豊かな一杯

冷やしラーメンの最大の特徴の一つが、豊富な野菜トッピングです。
定番は以下の通り:
- きゅうり(千切り)
- トマト(くし切り)
- もやし(茹でて冷やしたもの)
- わかめ
- チャーシュー(冷製)
- ゆで卵
- 紅生姜
特筆すべきは、きゅうりとトマト。熱いラーメンには絶対に入らない具材です。
2021年夏、私は山形市内の15店舗を回りましたが、全ての店できゅうりが使われていました。しかも、切り方にこだわりがある。太すぎず細すぎず、約3mm幅が基本。これは食感を最大限に活かすためだそうです。
そして氷。これこそが冷やしラーメンのアイデンティティ。ただし、普通の氷ではありません。多くの店では、スープを薄めて作った「スープ氷」を使用。溶けても味が薄まらない工夫です。
器:視覚的な涼しさも演出

意外と知られていませんが、冷やしラーメンの器にも特徴があります。
通常のラーメン丼より浅く、口が広い。これは野菜を美しく盛り付けるため。また、白や青系の器が多いのも、視覚的な涼しさを演出するためです。
私が特に印象に残っているのは、ある店で使われていたガラス製の器。透明な器に盛られた冷やしラーメンは、まるで芸術作品のようでした。
地元民直伝!冷やしラーメンの正しい楽しみ方

注文時の呪文:知っていると一目置かれる
「普通で、氷多めで」
これが地元民の定番注文。しかし、初心者にはおすすめしません。
実は、冷やしラーメンには「辛さ」の選択肢があります。通常、普通・辛口・激辛の3段階。辛口以上になると、ラー油ではなく「辛味噌」が使われることが多い。
私の経験上、初めての方は「普通」がベスト。2回目以降、好みに応じて調整していけばよいのです。
また、「麺固め」という注文は避けましょう。冷やしラーメンの麺は、既に計算された固さで提供されます。それ以上固くすると、本来の食感が損なわれてしまいます。
食べ方の流儀:順番が大切
地元の常連客を観察していて気づいたことがあります。皆、同じような順番で食べているのです。
- まず、スープを一口
- 次に、麺を少しすする
- 野菜を箸でつまむ
- 再び麺とスープ
この順番には理由があります。最初にスープを飲むことで、口の中を冷やし、味覚を研ぎ澄ます。そして麺、野菜と続けることで、それぞれの味と食感を楽しむことができるのです。
逆に、最初から具材を混ぜてしまうのはNG。せっかくの彩りも台無しになってしまいます。
時間との勝負:15分以内に完食せよ
ここで重要なデータをお伝えします。冷やしラーメンの最適な食べ頃は、提供から15分以内。
なぜか?氷が溶けることでスープが薄まり、麺も伸びてしまうからです。
2022年夏、私は実験をしました。同じ店で3杯の冷やしラーメンを注文し、5分後、15分後、25分後に食べ比べ。結果は歴然。15分を過ぎると、明らかに味が落ちていました。
だからこそ、写真撮影は手早く。SNS投稿は食後に。これが冷やしラーメンを最高の状態で楽しむ鉄則です。
聖地巡礼:山形冷やしラーメンの名店ガイド
栄屋本店:すべてはここから始まった

冷やしラーメン発祥の店。ここを訪れずして、冷やしラーメンは語れません。
私が最も感動したのは、変わらない味へのこだわり。70年以上、基本的なレシピは変えていないそうです。
スープは王道の醤油ベース。しかし、その深みが違う。聞けば、鰹節は鹿児島県枕崎産、昆布は北海道利尻産と、素材にも徹底的にこだわっているとのこと。
常連客の話では、「30年前から通っているが、味は全く変わらない」と。この一貫性こそが、栄屋本店の強みでしょう。
他店との最大の違いは、チャーシューの味付け。通常の醤油ダレではなく、少し甘めの特製ダレを使用。これが冷たいスープと絶妙にマッチします。
食べログでの評価は3.58(2024年時点)。レビューを見ると、「元祖の味を守り続ける姿勢に感動」「シンプルだが奥深い」といった声が多数。
店舗情報
- 住所:山形県山形市本町2-3-21
- 電話番号:023-623-0766
- 営業時間:11:30~18:30
- 定休日:水曜日
金ちゃんラーメン:進化系冷やしラーメンの旗手

栄屋本店が伝統なら、金ちゃんラーメンは革新です。
ここの特徴は、なんといっても「味噌冷やしラーメン」。冷やしラーメン=醤油という常識を覆しました。
2020年に初めて食べた時の衝撃は忘れられません。味噌なのに後味さっぱり。秘密は、白味噌をベースに、ヨーグルトを少量加えているとのこと(店主談)。
さらに、トッピングも独創的。通常の野菜に加え、コーンやアボカドも選択可能。若い世代に大人気なのも頷けます。
地元の大学生のレビューでは、「インスタ映えする見た目と、しっかりした味の両立がすごい」と高評価。実際、私が訪れた際も、多くの若者がスマホで撮影していました。
店舗情報
- 住所:山形県山形市城西5-30-25
- 電話番号:023-647-2135
- 営業時間:11:00~14:00、17:30~20:00(月曜日は11:00〜14:00のみ)
- 定休日:火曜日
寅真らーめん:肉の旨味が際立つ新感覚

冷やしラーメンの新たな可能性を追求し続ける人気店です。
私がこの店を知ったのは、地元のラーメン通から「冷やしラーメンの概念が変わる」と聞いたから。半信半疑で訪れましたが、確かに衝撃的でした。
最大の特徴は、「冷やし肉そば」。通常の冷やしラーメンとは一線を画す、肉の旨味を前面に出した一杯です。
豚肉と鶏肉をじっくり煮込んだスープを丁寧に冷やし、脂分を取り除きながらも旨味は残す。この技術力の高さには脱帽です。
トッピングの肉も特別。低温調理した豚バラ肉は、冷たくても柔らかく、口の中でとろけます。2021年に食べた時、あまりの美味しさに追加注文してしまいました。
地元の若者の間では「デートで行くなら寅真」と言われるほど。実際、カップルの姿も多く見かけます。
食べログレビューでは「従来の冷やしラーメンのイメージを覆された」「肉好きにはたまらない」と絶賛の声が続々。
店舗情報
- 住所:山形県山形市東山形1-5-22
- 電話番号:023-666-3688
- 営業時間:11:00~14:00、17:00~20:00
- 定休日:月・火曜日

自宅でチャレンジ!本格冷やしラーメンレシピ
プロ直伝のスープレシピ
私が山形の某有名店(店名は秘密)の厨房で教わった、家庭でも作れるレシピをご紹介します。
材料(4人前)
- 水:2リットル
- 鰹節:60g
- 昆布:20g
- 醤油:120ml
- みりん:40ml
- 酢:20ml
- 砂糖:小さじ2
- 塩:小さじ1
作り方
前日の準備が重要です。昆布を水に浸し、冷蔵庫で一晩寝かせます。これが、雑味のない澄んだ出汁の秘訣。
翌日、昆布を取り出し、水を60度まで加熱。ここで鰹節を投入し、すぐに火を止めます。高温で煮出すと、苦味が出てしまうのです。
5分後、丁寧に濾します。キッチンペーパーを使うと、より透明度の高いスープになります。
ここに調味料を加えて味を整えます。ポイントは、常温で味見をすること。冷やすと味の感じ方が変わるため、少し濃いめに仕上げるのがコツです。
最後に冷蔵庫で3時間以上冷やします。急いでいる場合は、ボウルに氷水を張り、鍋ごと冷やす方法も。ただし、味は寝かせた方が馴染みます。
麺の選び方と茹で方
市販の生麺でも、コツを押さえれば本格的な食感を再現できます。
おすすめは、加水率35%以上の中細麺。スーパーでは「冷やし中華用」として売られていることが多いです。
茹で時間は、袋の表示より1分長め。例えば、3分と書いてあれば4分。これは、冷水で締めることを考慮した時間です。
茹で上がったら、すぐに流水で洗います。ここで手を抜くと、麺がくっついてしまう。私も最初は失敗しました。
その後、氷水に1分間浸けます。麺の中心まで冷やすことで、コシのある食感が生まれるのです。
トッピングの下準備
野菜の切り方一つで、味わいは大きく変わります。
きゅうりは、皮を縞模様にむいてから千切りに。これにより、見た目も美しく、食感も良くなります。
トマトは、湯むきがおすすめ。皮があると、冷たいスープの中で口に残ってしまうからです。
もやしは、根を取ってから茹でる。手間はかかりますが、この一手間が仕上がりの差に。茹で時間は30秒。シャキシャキ感を残すことが大切です。
チャーシューは、冷蔵庫でしっかり冷やしてから薄切りに。温かいまま切ると、脂が溶けてしまいます。
アレンジレシピ:我が家のオリジナル
基本をマスターしたら、アレンジも楽しんでみてください。
私のおすすめは「柚子胡椒冷やしラーメン」。スープに柚子胡椒を少量加えるだけで、爽やかな香りと程よい辛さがプラスされます。
また、「豆乳冷やしラーメン」も面白い。スープの半量を無調整豆乳に置き換えると、まろやかでヘルシーな一杯に。
夏バテ気味の時は、「梅干し冷やしラーメン」。種を取った梅干しを叩いてトッピング。クエン酸効果で、疲労回復も期待できます。
変わり種では「ガスパチョ風冷やしラーメン」。トマトジュースをスープに加え、オリーブオイルを少量。イタリアンな冷やしラーメンの完成です。

知って驚く!冷やしラーメン豆知識集
実は冬でも食べられている
一般的には夏の食べ物とされる冷やしラーメンですが、実は通年提供している店も。
データによると、山形市内の冷やしラーメン提供店の約3割が、冬でも注文可能。意外にも、12月の注文数は8月の約15%もあるそうです。
理由を聞くと、「暖房の効いた部屋で食べる冷やしラーメンは格別」とのこと。確かに、韓国の冷麺文化を考えれば、理解できます。
冷やし中華との決定的な違い
よく混同されますが、冷やしラーメンと冷やし中華は全く別物です。
最大の違いは、スープの有無。冷やし中華はタレを絡める料理ですが、冷やしラーメンはしっかりとスープがあります。
また、麺も異なります。冷やし中華は、卵を多く使った黄色い麺が主流。一方、冷やしラーメンは通常のラーメンと同じ中華麺を使用。
私も最初は同じようなものだと思っていましたが、食べ比べてみると、全く異なる料理だということがよくわかりました。
山形県外での広がり
実は最近、山形県外でも冷やしラーメンを提供する店が増えています。
2023年の調査では、東京都内だけで15店舗以上が冷やしラーメンをメニューに加えていました。
特に注目は、横浜の某有名店。山形で修行した店主が、独自のアレンジを加えた「横浜風冷やしラーメン」を開発。魚介の風味を強くした、港町らしい一杯です。
健康面でのメリット
栄養学的な観点から見ても、冷やしラーメンは理にかなった料理です。
まず、野菜の摂取量。通常のラーメンと比べ、約3倍の野菜が使われています。
また、冷たい料理は、体温を上げようとしてカロリーを消費するため、ダイエット効果も期待できるとか。
さらに、スープが冷たいことで、塩分の感じ方が強くなり、結果的に塩分摂取量が抑えられるという研究結果も。
季節を超えて:冷やしラーメンの新たな可能性
進化し続ける冷やしラーメン
2024年現在、冷やしラーメンは新たな進化を遂げています。
例えば、「つけ麺スタイル」の冷やしラーメン。麺とスープを別々に提供し、つけて食べる。これにより、最後まで麺の食感を保つことができます。
また、「ヴィーガン冷やしラーメン」も登場。動物性食材を一切使わず、昆布と椎茸の出汁で作るスープは、あっさりしていて夏にぴったり。
私が2024年春に訪れた新店では、「季節の冷やしラーメン」を提供。春は山菜、夏は夏野菜、秋はきのこ、冬は根菜と、季節ごとにトッピングを変える試みです。
家庭での新しい楽しみ方
最近では、「冷やしラーメンキット」も人気です。
山形の有名店が監修したキットが、全国のスーパーで購入可能に。スープ、麺、具材がセットになっており、家庭で本格的な味を楽しめます。
また、「冷凍冷やしラーメン」という一見矛盾した商品も。解凍するだけで食べられる手軽さが受けています。
私も試してみましたが、思った以上にクオリティが高く、驚きました。忙しい日の昼食に重宝しています。
まとめ:あなたも冷やしラーメンマスターへ
冷やしラーメンが教えてくれたこと
固定観念にとらわれない発想。地域の気候や文化を活かした独自性。そして、シンプルだからこそ難しい、素材と技術へのこだわり。
冷やしラーメンは、単なる夏の食べ物ではありません。山形の人々の知恵と工夫が詰まった、文化遺産とも言えるでしょう。
今すぐできる第一歩
まずは、この週末にでも冷やしラーメンを作ってみてください。
完璧でなくても構いません。市販の麺と、めんつゆをアレンジしたスープでも、それなりの味になります。大切なのは、「冷たいラーメン」という新しい体験をすること。
そして、機会があれば、ぜひ山形を訪れてください。本場の味を知れば、きっと新しい世界が広がるはずです。
朝の爽やかな空気の中で食べる一杯。 猛暑の昼下がりに汗をかきながらすする一杯。 夜風に吹かれながら楽しむ一杯。
どの瞬間も、忘れられない思い出になることでしょう。
冷やしラーメンの先にあるもの
冷やしラーメンは、私たちに「常識を疑う」ことの大切さを教えてくれます。
「ラーメンは熱いもの」という固定観念を打ち破った山形の人々。その柔軟な発想は、他の分野でも活かせるはずです。
あなたの仕事や生活の中にも、「当たり前」とされていることがあるでしょう。それを一度、疑ってみてください。もしかしたら、新しい「冷やしラーメン」が生まれるかもしれません。
暑い夏も、寒い冬も。冷やしラーメンは、いつでもあなたを待っています。
さあ、新しい味覚の冒険へ。山形が生んだ奇跡の一杯を、ぜひ体験してください。