ラーメンの麺といえば、細くてツルツル。そんな常識を根底から覆す一杯が、群馬県桐生市にある。

幅10センチ、厚さ1ミリ。まるで絹の反物のような麺が、丼の中でうねっている。箸で持ち上げると、まるでラザニアのシートを引き上げているような錯覚に陥る。これが「ひもかわラーメン」だ。すする？　いや、すすれない。噛んで、味わって、また噛む。ラーメンなのに「噛んで食べる」という新体験。一度食べたら、もう普通の麺には戻れないかもしれない。

ネット上で話題沸騰！ひもかわラーメン体験談まとめ

正直に告白しよう。筆者も最初は半信半疑だった。「幅10センチのラーメン？　ふざけてるのか？」と。

ところが、である。実際に食べてみると、その先入観は見事に裏切られた。麺がスープを「まとう」のだ。細麺がスープを「絡める」のとは、まったく違う体験。一口ごとに、スープの旨味が舌の上で広がっていく感覚は、ちょっと言葉にしづらい。

SNSやグルメサイトを覗いてみると、同じような衝撃を受けた人が続出しているようだ。

「見た目のインパクトで注文したけど、味も本格的で驚いた」
多くの人が、最初はSNS映え目的で注文している。しかし実食後の感想は「リピート確定」という声が圧倒的だ。

「もちもち食感がクセになる。普通のラーメンに戻れない」
薄いのにコシがある、という矛盾した食感。これがやみつきになるらしい。

「子どもが『また食べたい』と言ってきた」
意外にも、ファミリー層からの支持が厚い。箸で持ちやすく、すすらなくていいので、小さな子どもでも食べやすいのだとか。

「会社の同僚に差し入れしたら、昼休みに行列ができた」
職場でのシェアにも最適という声も。話のネタにもなるし、一石二鳥である。

なぜ群馬で「幅広麺」が生まれたのか？　織物文化との意外な関係

江戸時代。桐生は「日本の機どころ」と呼ばれ、織物産業で栄えていた。

朝から晩まで織機に向かう女性たち。彼女たちには、ゆっくり料理をする時間などなかった。そこで生まれたのが「ひもかわうどん」だ。普通のうどんが茹で上がるまで10分以上かかるのに対し、薄く平たいひもかわなら6〜8分。たった数分の差が、当時の働く女性たちにとっては貴重だったのである。

面白いことに、この麺の形は織物の「帯」に似ている。偶然か、それとも職人たちの遊び心か。真相は定かではないが、桐生の人々はこの麺を「帯麺」とも呼んできた。

時は流れて現代。うどん文化の延長線上に、ひもかわラーメンは誕生した。明治18年創業の老舗・叶屋食品が「この独特の麺を中華スープで食べたらどうなるか」と挑戦したのが始まりだ。伝統と革新の融合。400年の歴史を持つ織物の町は、今度は「麺の革命」を起こそうとしている。

ひもかわラーメンの三大特徴

【特徴①】スープ：意外にも「あっさり系」が主流

「こんな幅広い麺なら、濃厚なスープじゃないと負けるんじゃ？」

そう思うだろう。私もそう思っていた。ところが実際は逆だ。多くのひもかわラーメンは、醤油ベースのあっさりスープを採用している。理由は単純明快。麺の表面積が広いぶん、スープをたっぷり「まとう」からだ。濃厚すぎると、くどくなってしまう。

叶屋食品のひもかわラーメンは、鶏ガラと野菜をベースにした透明感のあるスープ。一方、足利麺（栃木県）のものは佐野ラーメン風のサッパリ醤油味。どちらも「麺が主役」という設計思想が貫かれている。

とはいえ、最近は味噌やカレースープとの組み合わせも登場している。桐生市の「もん吉」では、辛味噌スープのつけ麺スタイルで提供。これがまた、やみつきになる旨さなのだ。

【特徴②】麺：幅5〜15cm、厚さ1mm。すすれない、噛む麺

数字だけ見ても、ピンとこないかもしれない。だから、こう言い換えよう。

「スマートフォンの横幅くらいある麺」だ。

iPhone15の横幅が約7cm。ひもかわラーメンの麺は、それを軽く超える。店によっては15cmに達するものもある。もはや「麺」というより「シート」である。

厚さは約1mm。薄い。だが、この薄さがポイントだ。茹で時間が短くて済むし、スープの旨味が麺全体に染み込む。そして何より、独特の「つるもち食感」が生まれる。

製法にもこだわりがある。花山うどんの「鬼ひも川」は、厚さ1.52〜1.55mmとコンマ単位で調整されている。この精密さ。職人気質の国、日本らしいと言えばらしい。

【特徴③】具材：自由度が高い「キャンバス」としての麺

ひもかわラーメンの具材は、実は決まっていない。というより、「何でも合う」のだ。

定番はチャーシュー、メンマ、ネギ、煮卵。これはまあ、普通のラーメンと変わらない。だが、この幅広麺には隠れた才能がある。パスタのように使えるのだ。

カルボナーラ風にアレンジした「鬼ボナーラ」。ラザニアのようにチーズを乗せてオーブンで焼く。ミートソースをかければ、イタリアンにもなる。和洋折衷どころか、和洋中伊、なんでもござれ。この柔軟性こそ、ひもかわ麺の最大の魅力かもしれない。

ただし、一つだけ注意点がある。麺が大きいぶん、具材が「隠れやすい」。盛り付けは立体的に、麺の上に具材を載せることを意識したほうがいい。見た目も味のうち、である。

地元で愛される名店＆通販で買える店舗ガイド

現地で食べるか、取り寄せて自宅で楽しむか。どちらも捨てがたい選択だ。それぞれの特徴を見ていこう。

【現地で食べるなら】足利麺（栃木県足利市）

昭和50年、「伸びないラーメンが欲しい」という常連客の一言から生まれた元祖・ひもかわラーメン。幅7〜8cmの平打ち麺は、まるでワンタンの皮のような弾力が特徴だ。佐野ラーメン風のサッパリ醤油スープとの相性は抜群。名古屋からわざわざ食べに来るファンもいるという、知る人ぞ知る名店である。

📍 栃木県足利市 ／ 11時30分〜14時30分、月曜定休

【通販で買うなら①】叶屋食品「おいしい群馬のひもかわラーメン」

明治18年創業の老舗麺工場が手がける本格派。薄く広いひもかわ麺を中華麺として仕上げ、スープとの絡みの良さを追求している。

最大の特徴は「のびにくさ」。鍋の〆に入れても、ふやけにくい設計になっている。冬場の鍋パーティーにも重宝する一品だ。

💰 価格：要問合せ ／ 📦 Amazonなどより購入可能

ひもかわラーメンを食べた人の感想まとめ

実際に食べた人たちは、どんな感想を持っているのか。ネット上の声を集めてみた。

【初心者へのアドバイス】
「初めてなら、まずはシンプルな醤油スープで食べてみて」という声が多い。麺の食感をダイレクトに味わえるからだ。慣れてきたら、味噌やカレー、洋風アレンジにも挑戦してみるといい。

気になるカロリーと栄養成分

「幅広麺だから、カロリーも高いんじゃ？」

安心してほしい。意外にも、ひもかわ麺は麺類の中で最も低カロリーの部類に入る。

ただし、注意点もある。GI値（血糖値の上がりやすさ）は高めだ。ダイエット中の方は、野菜やたんぱく質を先に食べてから麺に手をつけると、血糖値の急上昇を抑えられる。

また、冷たいひもかわのほうが血糖値が上がりにくいというデータもある。冷やすことで「レジスタントスターチ」という消化されにくいデンプンが増えるためだ。つけ麺スタイルは、実は理にかなった食べ方なのである。

知ってると通ぶれる！ひもかわラーメン豆知識

本格ひもかわラーメンを自宅で楽しもう！

幅10センチ超え、厚さ1ミリ。すすれない、噛んで味わう新感覚のラーメン。

群馬県桐生市で400年育まれた「ひもかわ」の伝統に、中華の技法を融合させた「ひもかわラーメン」は、見た目のインパクトだけでなく、味も食感も一級品だ。

1食あたり100円台からという驚きのコスパ。茹で時間わずか3〜5分という時短性。カルボナーラからラザニアまで、和洋中イタリアンと何にでも変身する柔軟性。忙しい毎日の中で、ちょっとした非日常を味わいたいなら、これほど手軽な選択肢はないだろう。

週末の家族のランチに。同僚への差し入れに。取引先への手土産に。「なにこれ！」という驚きの声が聞こえてくる。それだけで、なんだか嬉しくなるものだ。

さあ、あなたも「噛むラーメン」の世界へ。